★★★ 2022年5月11日(水) 大阪ステーションシティシネマ7
日本在留のクルド難民一家を取り巻く色んな問題に切り込む意欲作。ってことだが、この程度ならドキュメンタリー「東京クルド」と「牛久」を見たほうがええんちゃうかと思わせる。って偉そうに言ってどっちも未見なんですが。
難民2世にあたる世代を描いて、そのアイデンティティの揺らぎとか、俺ら日本人からすれば言いにくい点を臆せず描いているのは目新しい。何故なら、故国を喪失した人たちを受け入れるに日本は余りに内向きだし、そんな日本でずっと暮らしていきたいと本当に思ってくれる難民次世代が育ってきているってことが我田引水に思えるからだ。でも本当にそうなら喜ばしいことだと思います。
この映画が物足りないのは、やはりクルド人コミュニティの描写が圧倒的に足りないことに尽きる。その代わりに多くの時間が主人公と日本人少年との淡い恋に費やされる。この大人未満子ども以上の微妙な年齢が問題の本質に迫るに夾雑物になっている。彼らは幼気に現実を受け入れてしまう時期は過ぎたが問題を社会的に解決出来るほどには成熟していない。難事に少年少女なりのレベルで関わるしかないのである。
主人公の少女は、クルド人としてのアイデンティティに後ろ向きである。食事や風習、コミュニティや親の決めた許婿に反発する。その設定ならば、逆に彼女の恋人はクルドの男にするべきであった。物語起動のベクトルは総じて日本サイドからに限定されてしまい問題の本質が遠ざかっているように感じた。
近年(2020年)のデータでは4000人弱の難民申請に対して受理件数は40人強。たったの1%だ。故国に帰れずに数ある国の中から日本を頼って来た人に余りに閉鎖的。虚偽申請も相当数あるにせよ50%くらいは受理すべきだろう。こんなことは官邸が50%の数字を出せばできる話で政治の問題やろう。
明日は我が身だわさ。北からロシア南から中国に同時侵攻されてなす術なく日本が消滅する。その時難民になった日本人を受け入れてくれる国はあるんでしょうか。
そんなこと、映画と関係なく考えてしまいました。
難民申請の理不尽や入管の非人道といった問題と主人公のアイデンティティの揺らぎの話がうまくリンクしていないので、あれこれ触れてみただけに終わる。彼女と彼氏が向かう何処かにある希望か絶望。これは本ちゃん前の前日譚。問題提議の真摯さを了解の上で。(cinemascape)