男の痰壺

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TAR ター

★★★★ 2023年5月17日(水) TOHOシネマズ梅田5

ケイト・ブランシェットがイケイケのパーフェクト女からズタボロに堕ちるという点で「ブルージャスミン」を、日常がパラノイア神経症的妄想に侵食される点で「反撥」を思わせるが、トッド・フィールドの語り口はアレンやポランスキーほどには特徴的ではない。寧ろ抑制的。

序盤に長い2つのシークェンスがある。公開質疑と学生への講義であるが、一見、物語を起動させるのに無縁と思われるやり取りにただならない緊迫感があり(後者は1シーン1カットの長回し)、ああ、こういう行間を省いた簡潔なシーンの連鎖による語り口が続くなら凄いものになるかもと思ったけど、そこまでの拘りはなかったみたい。

 

ブランシェットを取り巻く4人の女たち。この構造も強度がある。うち1人は一度も姿を見せない後進の指揮者。不在の彼女が不穏な物語を起動させ、いま1人のロシアからの新進チェロ奏者が転落へと誘う。しかし、最も印象的なのは第一バイオリン奏者で主人公の私生活のパートナー、シャロンを演じたニーナ・ホス。彼女のターへの冷静な視線が随所で効果的に現実世界のアンカーとして機能している。

 

まあ、正直クラッシック音楽への造詣ゼロの俺ですが、ケイトの指揮パフォーマンスは上っ面でどっか違うような気がしました。他は完璧なんですが。

 

不在の亡霊を含めてターと鬩ぎ合う4人の女たち。その演劇的構図の一方で公開質疑・大学での講義・同僚や師との対話といった長尺シークェンスが醸す業界の空気と軋轢。行間を省いた語り口はやがてパラノイアな妄想へ連結していく。ただ終盤の着地は有りがち。(cinemascape)

 

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