男の痰壺

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リボルバー・リリー

★★★ 2023年8月18日(金) Tジョイ梅田7

行定勲の初アクション演出にさして期待もしてなかったが、期待通りの凡庸な出来だった。綾瀬はるかは「レジェンド&バタフライ」での予想外の動きの良さに少なからず驚かされたけど、そのへんはやっぱ大友啓史の擬斗の見せ方に一日の長があるんだなと思わされた。

 

スパイ・暗殺者として育成され伝説とまで言われた女が組織を離脱して半ば引退している。でも、ある切掛で再び、と見飽き聞き飽きだけど鉄板とも言える設定。梗概も悪くない。巨額資金を巡っての陸軍・海軍の暗闘が背景にあり、大正末期の日本が大戦へと雪崩れ込んでいく時代の虚実綯い交ぜの伝奇ロマンは、小説で読んだらさぞ面白いんだろな、と思わせる。

 

でもね、日本映画でこういう分野で成功した験しを未だ嘗て見たことないし、本作もその例に漏れなかった。かつてよく読んだ西村寿行船戸与一浅田次郎とかの小説の納得いく映像化ってないんちゃうかなと思うんです。それは、原作者の持つ物語に対しての熱量に映画人たちの熱量が拮抗してないからだと思います。

 

中盤と最後にリリーと陸軍との銃撃戦が2回ある。多分、それはこの映画にとって大きな見せ場であるはずだったと思うんですが、どっちともどっちらけにつまらん。大体、兵隊の数多すぎで、そんだけ相手にして戦えるだけのリアリティをアクション構成に織り込めてない。銃弾と人死にを無駄に消費してるだけだ。銃撃戦の最中に赤ちゃんがヨタヨタ出てきたりするのだが、俺は「アンタッチャブル」の駅シークェンスでのデ・パルマの緻密な構成が思い出されて虚しくなった。赤ちゃん要らんかった。

今は「ジョン・ウィック」や本年公開作では「THE KILLER」あたりがジャンルのベンチマークの時代である。このジャンルでは日本映画は未だ20〜30年前の水準で彷徨いている。本気の奴がいないからだ。

 

綾瀬はるか長谷川博己に関しては好演だと思いましたが、板尾と阿部サダヲに関しては意外性だけ、トヨエツと蓮司は食傷、佐藤二朗は空転してると思った。萬斎の仕立て屋はさすがかだが、あの白いドレスはサイズ合ってるのか?と思いました。

 

市井に暮らす嘗ての伝説のスパイ&殺戮マシーンが再起動する。鉄板の設定に背景修飾も描き込まれているのだが行定の擬斗の魅せ方に斬新なキレは望めない。集団戦・タイマンともに凡庸。1人で100人倒すのはエモーションの喚起が要る。赤ちゃん要らん。(cinemascape)

 

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