男の痰壺

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アステロイド・シティ

★★★★ 2023年9月11日(月) 大阪ステーションシティシネマ12

入れ子構造なんだそうだが、それが十分に機能してるかは疑問である。1950年代、水爆の実験場の至近にある砂漠の中の町に表彰式の為に5人の少年少女とその家族が集められる、というのが内枠の物語で、外枠にその物語を創作する劇作家や演出家がいる。アーサー・ミラーエリア・カザンがモチーフだそうだが、あんまり面白くない。まあ、元ネタへの知識がないからかもしれませんが、この外枠と内枠に判りやすい関与が呈示されないことも一因かと。

 

ステロイドシティへ向かう列車やバスの主観カメラが軽快な50年代ソングに乗ってご機嫌な開巻だが、着いた場所はシティとは名ばかりの殺風景な場所で、いくつかのコテージとダイナーがあるだけであった。

ウェス・アンダーソンの凝り固まった美学をCG抜きで具現化するには、これくらいの町が限界なんでしょう。なんでも地面にまで彩色を施したとのことで、俺は黒澤の「どですかでん」を連想したのだが、まあ、美学への拘りが行き着くとこまできて内向きに凝固した世界の病的な閉塞感はギリギリの線で腐りかけの芳香を放ってると思いました。

 

総じて内枠を彩るギャグが冴えていると思いましたが、それは時代の剣呑さと表裏になっている。至近で行われる核実験や一瞬戦慄するような破壊兵器など。そのへん村上春樹的な食えなさを連想させる。

 

天才児たちが、暇つぶしにやる偉人の名前の連想記憶ゲームで、北条時行ってのがサラッと出てくるんですが、ネタ元は「鎌倉殿の13人」ですかね。おい、日本人で誰かいねー?こんなドラマが流行ってますわ、みたいな。でも、高時じゃないんやね。

 

入れ子構造の内側だけ良いのは『フレンチ・ディスパッチ』に輪をかける。パステルカラーと特異な空間処理に凝固された美学の裏に時代の剣呑が背中合わせに張り付いて腐りかけの芳香を放ち、停滞する空気と時間の中で時に本物のエロと稚戯なギャグが炸裂する。(cinemascape)

 

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