男の痰壺

映画の感想中心です

ソイレント・グリーン

★★★ 2024年5月28日(火) シネマート心斎橋

1973年の制作で物語の設定は2022年となっている。正に今であって、強烈な格差社会と深刻な食糧難は現在日本ではこれほどではないものの遠からずそうなりそうな気もする。

まあ、そういうディストピアの到来予想は今ではそんなに珍しくもなく、寧ろ手垢のついたものかもしれない。

 

世評ほどには大した映画とも思えないし、フライシャーとしても即物的なスピード感に欠ける気もするのだが、宣材にも謳われる「人間がいっぱい」だけは、ほんまいっぱいやなー思いました。CGなんかない時代ですからほんまもんの人間が路上や屋内に無気力に満ちている。このエキストラの大量動員は本作の特筆点でしょう。

 

展開がピリッとしないのは、殺人事件から映画は始まるのに捜査に来たチャールトン・ヘストンの刑事が本気でホシをあげようとする気が見受けられないからだ。殺された富裕層のジョゼフ・コットン宅で捜査そっちのけで食品や物品漁り、「家具」と称される専用慰安婦とデキちまってそっちも食う。だけど彼は殊更悪徳刑事なわけでなく、この時代はそのくらいの余録はフツー。

 

そういう時代の退廃をもっと本腰入れて描いて、それが底辺で蠢く下層の絶望とリンクしていけば悪意のディストピアは完遂されただろう。でも、原作もんだから仕方ないすな。当時はショッキングだったろうあの結末は予想がつきます。

 

コットンの虚無とG・ロビンソンの諦観の狭間でヘストンは只管に盗る・食う。それがディストピアで生きる術と知っているから。でなければ路上でうち重なって石ころのように眠る人の海に埋没するだろう。シャフナーに足りないのは退廃と絶望。(cinemascape)

 

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