男の痰壺

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妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ

★★★★★ 2018年6月13日(水) 梅田ブルク7シアター6
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思いをうまく伝えられない男と伝えてほしい女。
その遣る瀬無い機微を描くのは山田洋次の独壇場みたいだ。
俺は、実家に帰ってしまった妻のもとを訪れた夫とのやりとりを見ながら、「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」の駅の場面を思い出していた。
あそこまで一瞬に凝縮された名場面とは言えないし、雷のピカゴロもやりすぎ感があるが、それでもこういう台詞や間合いは、やっぱ余人の追随を許さないのである。
そこに至るまでの夜道のドライブ行も、雨の降らせ方など絶妙です。
 
「妻よ薔薇のように」って成瀬の名作のタイトルだったと思うが、そういうのをドカンとメインタイトルにもってきた。
そこに、山田の勝負作っていう思いが表れている。
夏川結衣で何かを撮りたかったんだと思う。
もう彼女も50代。
石井隆の「夜がまた来る」や「GONIN2」で若いころの彼女は見ていたが、さほど印象には残らなかった。
俺が括目したのは2010年「孤高のメス」の看護婦役で、いい歳のとり方をしたなと思った。
山田がシリーズ前身の「東京家族」で彼女を抜擢したのも無碍なるかなと思う。
 
まあ、シリーズ特有のゆるい家族描写は約束ごとだし仕方ない。
総じてギャグは抑えられている。
 
黴びた主婦の労働価値とはのテーマは『口笛を吹く寅次郎』に比肩する思いを伝えられない男と伝えてほしい女のもどかしい感情の機微という山田独壇場エッセンス投入で巧みに世界に浸透。夜のドライブ行の降雨タイミングなど想外の巧さだ。【夏川】も圧巻。(cinemascape)