男の痰壺

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青春の蹉跌

★★★★ 2019年7月21日(日) シネヌーヴォ
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出世の為にハイソなお嬢様と結婚することになって、付き合っている貧乏女が邪魔になる。
シオドア・ドライサーの昔から繰り返されている普遍的な設定でこれを石川達三が小説にした。
達三を読んだことはないのだが、フィルモグラフィから清張や山崎豊子の先導者みたいな感じか。
 
しっかし、これをようもまあ、神代辰巳に委ねたもんだと思う。
しかも、ショーケン主演。
脚本が長谷川和彦
で、あんのじょう、物語は放逐されている。
そんなもんに関心のない面子ばっかり集めてるんだから、そうなるわな。
 
土台、ショーケンが司法試験に一発で通る野郎にてんで見えません。
そもそもに、上昇意欲もあるように見えない。
で、中心軸は桃井かおりとのグダグダの腐れ縁の世界であって、どっちも何考えてるのかわからんので、鬱々と流れは停滞する。
妊娠を知って、堕ろせと言って、5ヶ月目で無理で、スキー旅行に誘われ雪山に2人で行って。
と流されるのみのショーケンで、2人がおんぶしあいながらふざけて雪山を行く件は何やっとんじゃの世界。
しかし、神代はそこを正念場として延々と撮る。
延々とつづくおんぶごっこは、体力を消耗させ、つかれきった2人を見てるうちに何故か泣けてくる。
世界から孤絶した道行き。
もつれあって崖から転び落ちて、そして、彼女の首を絞める。
木立ちの窪みに置かれたかおりの死体は、まるで地蔵菩薩のようだった。
 
少し前にT先輩と話したとき、何故かショーケンの話題になった。
この人、ショーケンなんか関心あったんかいな。
と思ったが、ユリイカから原稿たのまれてんねんと言っていた。
先日、ふと思い出し本屋で立ち読みした。
長すぎてちゃんと読んでませんが、「青春の蹉跌」はスルーされておりました。
俺も今さらに見たんですが、肝やと思いました。
すんません。
 
ドラマトゥルギーに興味ない監督・脚本・主演が揃って原作の枠組は融解し、残滓も形骸の誹りを免れない。しかし、どこまで本気か知れぬ浮ついた2人が雪山でじゃれ合い道行の体をなすあたり神代の真骨頂。雑木の洞に収まるかおりは地蔵菩薩のよう。(cinemascape)