★★★★ 2020年1月12日(日) シネリーブル梅田2
女優に送りつけられてきた、女優志望の若い女性の自殺画像をめぐって話が始まるが、いかにもなサスペンサブルな展開は志向してはいない。
でも、中盤までは、それがモノホンなのか或いはフェイクかの疑問が映画を牽引する、一応は。
ジャファル・パナヒの映画は初見だが、イランが革命によって変質したことにより失われた自由や権利を問う人みたいで、バリバリの反政府的立場です。
であるから、娯楽志向なんて言ってる場合じゃない。
ではあるが、イランの女性が自由とは程遠い立場に身を置かされているみたいな話も、直裁に言われたってと思うのだ。
俺は、この映画の語り口の静謐で恣意性に委ねたかのような佇まいに惹かれた。
女優と監督の真相究明の2人旅の物語なのだが、ときにヒステリックになる女優の脇で常にニュートラルな物腰を維持する監督。これをパナヒ自身が演じていることは後から知ったが、なるほど、こんな人の撮る映画は信頼できるわいと思わせる。
女優が女性が隠れている隠遁させられた老女優の家を訪ねる。彼はじーっと車の中で待っている。夕闇が迫ってきてやがて夜になる。それでも彼はじーっと待っている。
或いは、女性が実家に戻るとき、付き添いで女優が一緒に中に入っていく。親父や兄貴は娘のことを怒りまくっているので大騒ぎになるかもしれない。それでも彼は1人車の中でじーっと待っている。
静かに静観し事の推移を見守るしかない。
それで正解なのだと思う。
映画を起動させる自殺動画が前半を牽引し旅路の中で取り巻く状況が浮かび上がる有りがち設定だが、感情が激しく揺れる女優の横で冷静を維持するパナヒの佇まい。イスラム原理主義下で抑圧される女性の人権に男である我々はどう対処すべきかの静かな回答。(cinemascape)