男の痰壺

映画の感想中心です

おもひでのしずく (2011年8月6日 (土))

※おもひでのしずく:以前書いたYahoo日記の再掲載です。

 

ノスタルジック・メランコリー

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西加奈子の「こうふく あかの」を読んで、こいつは、ここ1年くらいに読んだ本ではダントツだと思い、出勤途中の地下鉄車内で読了した興奮も冷め遣らぬままに「この主人公って丸っきりオレ」とあっちこっちで言いふらし、何がオレなのかと聞かれたら困るのだが、「セックスレス夫」「寝取られ亭主」「俺ってイケてる上司との自意識過剰」「出来ない同僚を内心で侮蔑」…とどれを取っても恥さらしでしかなく、興奮が冷めてくるにつれ自己嫌悪もいや増すのだ。

で、本当は主人公が俺に似てるとかどうとかではなく、又映画「しんぼる」を想起させる2元構成のトリッキーさの冴え方だとかでもなく、この本で最大に俺を魅了したのは、町外れの住宅街の人目につかない奥路地にあるというバーの描写。
郷愁にも似たノスタルジー

奈良の新大宮にあった、いつも客がいないだだっ広いラウンジ。
何人かいた女の子たちは皆小柄でキュートで寡黙だった。
青いベルベット地の壁紙と間接照明の静謐。

大阪の豊中、曽根駅前の立飲み屋。
キムチをアテに焼酎を何杯か飲む。
カウンターは大概埋まっていて男たちは概ね寡黙だった。
締めに俺は大メシと明太子を頼む。

あの頃、楽しいと思って飲んでたわけでもなかろうが、今となってみれば堪らなく懐かしい。