★★★★ 2022年3月21日(月) プラネットプラスワン
60年代にイギリスのスタジオシステムの圏外から勃興したフリーシネマの3羽烏の1人リンゼイ・アンダーソンの作品だが、社会のシステムに対するどうしようもない怒りや反抗というより、ひたすらに男と女のうまくいかない成り行きを描いている点が意外であった。
主人公の男は炭鉱労働者からプロのラグビー選手に転向してスター選手になりけっこうな額の契約金を得る。女なんか引く手数多だろうに、彼は貧乏時代から住んでる安下宿の未亡人に執着している。一方で未亡人は、幼い娘がいて大変だろうに男のアプローチを一貫して拒否し続ける。
映画の見方に関して何事も明快に断定して切って捨てるT先輩が珍しく「よくわからん」と言っていて、その通りやと思う俺であった。
が俺は又こうも思うのだ。所詮、男と女なんて、とどのつまり互いのことよくわからんもんやないか、と。
2つの、シークェンスが印象に残る。
男から毛皮のコートをプレゼントされた女はしぶしぶレストランでの食事に応じる。セレブ御用達の高級レストランで男は無粋な振る舞いを連発し、居た堪れずに女は席を立って帰る。
男の同僚の結婚式に出席した教会外でのライスシャワー。若者たちの華やぎに場違いな疎外感を感じ女は人の輪から離れる。
どちらとも2人は今後どうあってもうまくいきっこないという果てしない徒労感が横溢するシーンで篇中でも優れているし成功してる。ここで加点しました。
多分、リチャード・ハリスの初主演作だろう。この若手俳優が、晩年「許されざる者」で、ジーン・ハックマンにいたぶり殺される総髪の賞金稼ぎになると思うと感慨深い。
レイチェル・ロバーツもそう。強面顔のおばさんイメージの晩年からすると、当たり前だが若くてクールだ。
一応は成り上がりの成功者の話だが、労働階級の見通しの立たない恋愛を描いて、それが英階級社会の閉塞と相俟ってとことん救われない。レストランと結婚式のシークェンスは気持ちがすれ違う痛々しさをレイチェル・ロバーツが絶妙に体現して心に沁みる。(cinemascape)