男の痰壺

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別れる決心

★★★★★ 2023年2月18日(土) 大阪ステーションシティシネマ

またかのファムファタールものかと食傷を思わせるのだが、パク・チャヌクは裏の裏を行って純なハートを抽出してきた。やっぱ食えない野郎だと思う。

 

【以下ネタバレです】

刑事と容疑者、妻帯者とバツイチ女。とまあ2人の関係は相容れることを許さないわけだが、障壁があるほど恋は燃え上がる。世の中に不倫が絶えないのはその為なのだろう。

チャヌクの演出は2人が初めて対面するシーンから、男の女に対する視線をあの手この手でフィーチャーする。それが、刑事としての容疑者に対するものなのか男としての女に対するものなのか混濁しているのがスリリングだ。境界を敢えて明確にしない演出。

そういった揺らめく想いが全篇にわたり映画を支配していて、事件の捜査→解明という一方の建て枠と不可分に相関していく。

 

タン・ウェイの出演作を「ラスト、コーション」「ロングデイズ・ジャーニー」と2作見ているが正直言って印象に残ることはなかった。本作でも初出のシーンはインパクトに欠ける。しかし、展開が進むにつれて加速的に存在感を増していく。力のある役者の根力とはそういうものなのだろう。

 

2人は互いの想いにかかわらず一線を越えることはない。エロ要素を封印したチャヌクは枯れたのか。俺は寧ろ成熟と感じた。中盤の雨の寺院での逢瀬なぞまるで成瀬の映画を見てるように感じた。

 

チラ見・盗視・ガン見といった視線バリエーションが刑事の本分と男の性の隔壁を混濁させる。その曖昧さの戦慄に相乗して腰が据わりゆくタン・ウェイの内実。それが想外の純情であったという裏の裏。性描写を廃したチャヌクは意外にも成瀬チック。(cinemascape)

 

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