男の痰壺

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君たちはどう生きるか

★★★★ 2023年7月18日(火) 大阪ステーションシティシネマ

風立ちぬ」を見たとき、あゝ宮崎駿引退するのか、もったいないなと思ったけど、今作を見ると潮時やなと感じた。良いか悪いかは別として常に予想を裏切って前に進み続けてきた彼の作品で初めて味わう停滞感だった。後半の時空がクロスオーバーするお城なんかは新海誠の映画かと思った。まあ、新海だって宮崎映画の影響下にあるんだろうし、それを似てると言われたって不本意でしょうけど。

 

風立ちぬ」の震災描写を思わせる火事から、疎開先の田舎の屋敷で「千と千尋」みたいな迷宮の入り口に誘われる。水先案内をするアオサギが新味のある食えないキャラで、この辺までは文句のつけようもない。

しかし、物語の強度は次第に拡散していく。下の世界への転落以降、母親探しと叔母探しの2重の目的が混在し始めて、どちらも突き詰められておらず生半可。ましてや大叔父が登場して世界の均衡を保つ、とかどうだっていいやんって話で、主人公が後を継げ言われて「僕の柄じゃないっす」で済むのか?世界が均衡失ってええのん?そして、済し崩しに母と叔母探しは一応達成されて大団円となるのである。

 

もののけ姫」以降、こういう複層したテーマが未整理なカオス状態を呈することは常ではあったが、それでも圧倒的な異形キャラやガジェットを惜しげなくぶち込んで見せ切ってしまう、というのが宮崎映画だった気がします。「もののけ」の祟り神や「千と千尋」の顔無しや「ハウル」の動く城とか。今回、決定的にそれが欠けている。インコ大王ではね。

 

人生の先達者が次世代に向けて困難な時代を「どう生きるか」との問いかけや解答はこれっぽっちもありません。どうせなら最後っ屁かましてほしかったとも思いますが、それも、らしくないですかね。

 

自己作の変奏連打な導入は流石だが本題に入ってからは新海誠の2番煎じめいて本質的なダークネスや非情は終ぞ顕れない。母の無難、大叔父余分ななか叔母(義母)の垣間見せる邪こそなのだが有耶無耶に塗れ、イオの怪物待望はインコ軍団にへし折られる。(cinemascape)

 

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