男の痰壺

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哀れなるものたち

★★★★ 2024年2月日(土) MOVIXあまがさき7

ビクトリア朝時代ということだから、19世紀末から20世紀初頭の話なのだが、多分にパラレルワールドめいた奇想的な美術・衣装が施されている。ランディモスのこれまでの作品も奇想を旨としてきたけど、意匠に関してはリアリズムできてたわけで、とんでもない話をとんでもない器に入れない方が良かったのに、と思った。まあ、それは俺個人の嗜好なんでしょうが。

 

【以下ネタバレです】

自殺した母親に脳移植された胎児。当初は当たり前だが赤ん坊の振る舞いだったのが、だんだん知識を吸収し体験を積んでいく。この過程がマーク・ラファロに連れられての地中海クルーズで、中盤まではそういう話かと思わせる。

であるが、終盤になって唐突に母親の夫が登場して作品のトーンが変わる。女性であることを謳歌する奇想は放逐され、リアルな男権主義のリアリズムが取って代わる。ああ、アメリカの賞レースでピックアップされたのはそういうことか。「プロミシング・ヤング・ウーマン」とかと同じ男権によって踏み躙られた女性の報復。底が割れた気がしました。(いや、何もそのテーマを否定するわけではなく、あくまでも過度なポリコネへの懐疑です)

もちろんランティモスにそんな意図はなかったんやろうけど、作り手のオモロイもん作ろうとの気持ちを超えたところで評価は形成される。

 

パリの娼館での描写が、これまでのランティモス流の1つ突き抜けたイヤらしさでやっぱ素晴らしいと思いました。

出演者の中ではマーク・ラファロに驚いた。「アベンジャーズ」のハルクしかイメージになかったので。こんな腹芸できるんですね。素晴らしかった。

 

奇想を塗した成長譚が降って湧いた復讐のリアリズムにギアチェンジするのが唐突感を免れない。にしてもパリの娼館などランティモス特有のゲテ趣味が随所で炸裂し惹かれる。一方で都市景観のCGは狙い過ぎて凡庸。ラファロの腹芸が両者を繋ぎ留める。(cinemascape)

 

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