男の痰壺

映画の感想中心です

ありがとう、トニ・エルドマン

★★★★  2017年7月17日(月) シネリーブル梅田1
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働く女性の否応ない孤独や等身大の周辺事情を描いているが、背伸びも嘘八百もない。
経営コンサルというエグゼクティブな職種を描いてかっこもつけない。
かと言って、批判めいたこともやらない。
 
父親が奇矯な人間で、返送やかぶりもん大好き親父なのだが、娘のことは並み以上に心配してる。
愛を安売りしないのも良い。
 
とにかく、見てる間、俺は相米慎二の映画をずっと思い浮かべていた。
特に「翔んだカップル」のもぐら叩きのシーンの空気感を思い起こしていた。
ひとことで言い表せない錯綜した感情と空気感。
この映画は、そういったものを徹底的にこだわって描こうとしている。
 
パーティでも顛末から続く公園の抱擁シーンで終わらなかったのが良い。
並みのやつならそうしただろう。
 
ラスト、彼女は父親の出っ歯入れ歯をはめて、変な帽子をかぶってみる。
が、世界は何も変わらない。
変わらなくっていいんだという肯定感だけで、十全に世界を描き切っている。
 
働く女性の孤独や周辺事情を描き見栄も嘘も無い。父親は奇矯アプローチで娘を慮るが愛は安売りしない。映画が拘るのは錯綜した感情が醸す空気。顛末の後に彼女は父の真似をしてみるが世界は何も変わらない。変わらなくっていいという全肯定が世界を充足する。(cinemascape)