男の痰壺

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シェイプ・オブ・ウォーター

★★★★ 2018年3月17日(土) 大阪ステーションシティシネマ10
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主人公は障碍をもつが、徹底的に虐げられてるとは言えない状況だ。
もちろん、彼女の孤独や悲哀は幾重にも描かれる。
私生活で唯一の隣人はゲイの絵描き。
職場での唯一の友人は黒人。
設定された60年代では、彼ら彼女らは虐げられた人々であって、寄り添うようなそのコミューンは物哀しい。
それでも、人外のものと交わりを持つのには、能動的に意思疎通に歓びを感じたからではなく、追い詰められて、行き場がなくなり、その状況下で「愛」は芽生えて欲しいのである。
 
恋愛映画としての強度が圧倒的に足りないのだ。
 
それでも、この映画を斬って棄てられないのは、美点も多いからだ。
サリー・ホーキンスだが、「ブルー・ジャスミン」のくたびれた妹から「GODXZILLA」のドクター芹沢の助手まで演じる役の振幅の広さに好感を持っていたが、このようなど真ん中の主役を張れるとは思っていなかった。
入浴シーンの裸体の美しさと、自慰シーンの切ない哀しさが予想外であった。
 
デル・トロ演出はエグい描写が冴えて、「パンズ・ラビリンス」の好調に迫る。
マイケル・シャノン周りにそれは集約され、撃った相手の顔の穴に指を突っ込み引きずるなんて描写はちょっと見たことがないレベルだ。
そして、その彼も組織の中で使い棄てられる悲哀を帯びているのだ。
 
諸手を挙げて、賛意を表する気にもならないが、これがアカデミー作品賞ならまあ納得できる。
 
唖者の彼女の慎ましく夢ない日常に差し込まれた異物としてのそれのマッチョ肢体のリアリズムが被虐下での恋愛映画の強度不足を補う。マイノリティが肩寄せ合い生きる60年代の時代設定も俄かに納得性を帯び、同時に加虐者の孤絶をも浮かび上がらせるだろう。(cinemascape)