★★★★★ 2019年5月6日(月) シネリーブル梅田2
アリーチェ・ロルヴァケルの前作の「夏をゆく人々」の感想を見返してみると、シネフィル的と書いてある。
エリセ、タヴィアーニ、アンゲロプロス、アントニオーニの名前を挙げてる。
重要な脇役の役名が、タンクレディ。
どっかで聞いたことある特徴的な名前だと思ったら、「山猫」のアラン・ドロンの役名であった。
設定がクストリツァの「アンダーグラウンド」みたいなのだが、実際に事件をネタにしてるそうなので偶然かも。
一種の聖人伝説なのだが、主人公は超然とした無私性を意思的に貫徹する人物でもない。
パシリのようにこき使われ、ボーッとして言われたことをやる。
そういった、リアルな俗人性のさじ加減が微妙に効いている。
ありがちな聖人伝説を十分に噛み砕いて、今の世の我々俗人の悪意をさらけ出させる手際が嫌らしくない。
終盤で、落ち込んだ窃盗団が教会で追い返される件。
パイプオルガンは音を発することを止めて一行を追いかけてくる。
ファンタジー的ですれすれのプロットだが、俺は感銘を受けた。
これは、傑作であろう。
パシリな愚物の真正が垣間見えたころ起こる滑落だが狼に仮託された思し召しが奇跡を呼ぶ。聖人伝説の如何わしさを打破する生身のリアリティと映画的記憶の相反が絶妙で偽善者は福音から見放されるの安さは反転し高みに達する。世知辛い世に問う在るべき善。(cinemascape)