★★★★ 2019年9月7日(土) 大阪ステーションシティシネマ6
ラップっていえば、なんだか韻を踏んだお経か呪文に聞こえて、てんで興味がわくもんでもなかったのだが、この映画で初めてラップとは何かを教えられた気がする。
ラップ勃興期を描いた「ストレイト・アウタ・コンプトン」って映画も見てはいるんだが、あれはバンドの盛衰譚みたいなものだったので、生活者にとってのラップがどういうものだったかは今いち丁寧に描かれたとは言えないのだ。
主人公が言う。
「ラップにしないと誰も俺たちの言うこと聞いてくれない」と。
これは、優れて今のアメリカ社会に於ける差別を照射する映画だ。
黒人が差別されているってのはその通りで、主人公は白人警官が丸腰の黒人を射殺する場面に出くわすのであるが、その場から追い立てられた彼は「俺が警察に行って見たままを証言して聞いてもらえると思うか?」と述懐する。
でも、そういう話は俺たちも既に知っている。
今年公開された同じインディーズ系の映画で「スケートキッチン」でもそうだったんだが、今ダウンタウンに於いて社会的弱者としての階層社会では人種の障壁はどんどんなくなっているみたい。
主人公のダチの白人は黒人の主人公と幼いころからの親友であるらしいし、あたりまえのように黒人女性と結婚して子供もいる。
むしろ、この映画で強烈に撃たれるのは、異次元レベルに到達した所得や資産の格差がもたらす階層が産んだ障壁のように思える。
富裕層のパーティに顔を出して黒人ヤッピーから黒人ぶってると揶揄された白人のダチが、そいつをボコボコにする件が人種と格差が差別に於いて混濁する今を痛烈に示現している。
あまり話題になっていない映画で、見る前はどんなもんかと思っていたが、見るべき映画だと思う。
ラップに仮託するしか表現し得る手段がない人種差別の大状況に対して、ダウンタウンでは寧ろ格差への反撥が沸点に達する。黒人少年を射殺した白人警官も又こっち側の弱者だった。その笑えぬ状況に怒りを込め謳うしかない。魂の叫びとはこういうのを言うのだ。(cinemascape)