男の痰壺

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グリーンブック

★★★★★ 2019年3月24日(日) MOVIXあまがさき10
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アカデミー作品賞の映画ってのは信用ならんし、ましてや経緯が経緯だけに見る気もなかったのだが、見てよかったと思った。
 
中盤でディープサウスを旅する車がパンクして停車を余儀なくされる場面。
車外に出たドクター・シャーリーの目に綿花畑で働く黒人たちが映る。黒人たちも白人に運転させてる彼のことを怪訝に冷ややかに睨む。
なるほど、これは「夜の大捜査線」の人物配置をトレースしてるんやなと思った。
なんか、映画を冷ややかに見ていた俺のアドレナリンが俄かに噴出したのであった。
なんでかっていうと、「夜の大捜査線」ってめっちゃ好っきゃねん、わたくし。
 
まあ、展開に驚きはない。
あたまの良い黒人と、あたまの悪い白人が旅をともにすることで、互いの良いとこ悪いとこの理解を深めて差別意識を乗り越えていく。
ただ、天才ピアニストであるドクターシャーリーの立ち位置はシドニー・ポワチエのエリート刑事より遥かに複雑でどっちにも属せないコウモリの孤独に加え、ゲイという性的マイノリティでもある。
 
レイシストな警官に拘留される危機を超VIPの助けで逃れ、1人で男漁りして捕まり金で解決する。
ドクターシャーリーのドツボ連鎖が続く。
バンド仲間がヴィゴに問う。
「NYにいればチヤホヤされて金にもなるのに、彼はどうして南部の演奏旅行を希望したと思う」
その問いに明確な答えは用意されていないのだが。
 
変わりたかった。
閉塞を打ち破りたかった。
…そんなとこでしょうか。
 
レストランの入室でもめたホテルの演奏を思い切ってドタキャンしてから一気に流れが変わる。
黒人パブでのジャズセッション。
パンクを教えてくれた警官。
運転の代替。
と、運気は上がり続ける。
孤独なクリスマス。
思い切ってのヴィゴ家訪問。
このあたりのつるべ打ちの作劇は怒涛といっていいんじゃないでしょうか。
 
繭を出て辛苦の南部演奏を決意した彼の思いをとき解す旅路であり、その思いを知った男も変わる。『夜の大捜査線』の巧まざるリライトであるし上級のXマスムービー。演奏拒否の決断は酒場のセッション、雪夜のドライブを経てラスト彼女の至福の言葉に繋がる。(cinemascape)