男の痰壺

映画の感想中心です

サンセット物語

★★★★ 2019年9月8日(日) プラネットスタジオプラス1
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ロバート・マリガンの「地名+物語」3部作の掉尾を飾る。
なんてのは嘘で、「アラバマ物語」があたら名作になっちまったので日本の配給会社がテキトーにつけたタイトルだろう。尚、もう1本は「マンハッタン物語」です。
原タイトルは「インサイド・デイジー・クローヴァー」
なんだか、コーエン兄弟の傑作「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」みたいでかっちょいい。デイジー・クローヴァーは主役の女の子です。
女の子ってのも、設定18歳の役なのでそう書いたが、このときナタリー・ウッドは三十路近い。10歳サバよんでます。
 
まず、オープニングのタイトルバックが落書きだらけのコンクリートの壁にふてくされてもたれたデイジー
これが、ちょっとゴダールの映画みたいだ。
この映画、このオープニングとラストショットがモーレツにイケてます。
ラストはジョン・ウーの映画のチョウ・ユンファみたい。
 
まあ、ストーリーの骨子はありがちのバックステージもので、ハリウッドの辺境サンセットでバッタモンのスターのグッズを売っていた少女が見出されて、一躍スターになっちまうが、いろんなことがあって精神的に自壊してゆく。
このいろんなことの最大キーマンがブレイク前のロバート・レッドフォード演じる若手スターなのだが、ちょっと振り切れている。
まだ、初心なデイジーを手玉にとってその気にさせておいて、結婚までするのだが、新婚旅行の途中で砂漠のモーテルに彼女を残してトンズラこく。
あまりの展開に見てる者も唖然とする。
女が男を手玉にとって男が崩れるってのは谷崎潤一郎先生ほか「嘆きの天使」に至るまで枚挙にいとまがないのだが、男でこの性根ってのは、この時期のレッドフォードだからこそ説得性があるように思える。
 
ああ、このまま哀れデイジーは短い人生を閉じるのかってところで、マリガンのハードボイルド性がやにわに噴出するラスト5分の逆転の妙味。
ちょっと、これほど鮮やかなラストシーンは久々にお目にかかった気がする。
 
ゴダールなファーストカットとジョン・ウーなラストシーンを持つ素晴らしく歪なバックステージもので、主人公を翻弄することに呵責無くマリガンのハードボイルド性が滲み出る。カマトトを超越するウッドの受け芝居の泰然が歪みを是正した。(cinemascape)