★★★★★ 2019年6月9日(日) プラネットスタジオプラス1
ロバート・マリガンって「アラバマ物語」1本で辛うじて映画史に名を遺した人でしょう。
って予断は、ぶっとんだ。
これは、傑作だと思う。
今年、公開されたフランス映画「12か月の未来図」ってのと驚くくらいに似ている。
貧困層エリアの学校に赴任した教師が、勉強なんざやったって無駄っていう生徒たちの心を解き解し惹きつける。
方や、ベテランの男性教師であったのに対し、本作では新任の女性教師なのが大きな違いか。
いや、もっと言えば、映画の比重が子供たちの変化におかれた「12か月」に対し、本作は教師の惑いと再生が主眼に置かれているので、なんだか手前味噌だと思うかもしれない。
しかし、この教師の描き方が、ちょっと驚くくらいにハードボイルドなのだ。
彼女の私生活は全く描かれない。
であるから、何を悩み惑うのかに映画は寄り添わない。
突き放している。
彼女を支えるのは教師としてのプロフェッショナリズムへの真摯さであるらしい。
そのへんが、人権主義的なベタついた情緒を排する。
終盤に保護者面談会が行われて、夜の10時をすぎて帰り支度をしているときに、不良の男子学生が教室にやってきて襲われそうになる。
そのとき、彼女は全く動じるそぶりを見せない。
相手の目を見つめて、ゆっくり手を払う。
その、度量と肝の据わりの納得性。
マリガンの演出も編集のリズムが快適で、押さえるツボでショットの視線を跳躍させる。
ちょっと、他の映画も見てみたいと思わせる巧緻さであった。
学びの喜びを教える教育ものの体裁をとってはいるが軸は生徒ではなく新任女教師にある。のだが彼女の私生活は全カットされハードボイルドな仕事観が横溢する。自殺や強姦未遂のあと先輩教師と歩く雪のスラム街は彼女の意志を確認する。闊達な編集が心地よい。(cinemascape)