男の痰壺

映画の感想中心です

テリー・ギリアムのドン・キホーテ

★★★ 2020年1月25日(土) 大阪ステーションシティシネマ

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実現しなかった幻の企画ってのは得てして実現しなくって良かったってのが相場であって、しかも30年の時を経て、作り手がヨイヨイになって実現しました…なーんて愈々怪しいのであります。
 
ロスト・イン・ラ・マンチャ」を見てないので、当初のジョニデ主演ですすめられてたもんが、どういうもんであったか知る由もないが、今回できあがったこれは、やっぱなんだが薄いっす。まあ、そもそもギリアムにそんな傑作があったか疑問であるが、晩年の「Drパルナサス」あたりに比べても落ちると思う。
 
話は至極まっとうなもんで、それも意外であった。
娘のころに出会った少女が、後年、再会すると悪漢の手に落ちて不幸になっていた。
で、なんとか救おうとする。
ってのは、まんま「カリオストロ」やん!っていうより、たぶんそれの元ネタであったろう中世の騎士譚であって、ああ、ギリアムはそういうロマンティシズムを死ぬ前にどうしても吐露しときたかったんやってことを思いました。
 
であるから、自分をドン・キホーテと思い込んだ靴屋の爺さんの話は恐らく後付けであろう。しかし、それも又、ギリアムの奇譚嗜好のど真ん中ではある。
「バロン」あたりで変則技が面白いように決まったそういう時期に撮られていればって思いました。
 
ホドロフスキーの「デューン」も誰か実現させたってえな。なーんて思ったり。
…はしませんでした。

妄執に囚われた爺さんがやっとこ現世に帰還できたら運命の皮肉という悲哀は、姫救出の正ロマンティシズムと噛み合い損ねる。何より時空を超える奇想譚としてギリアムの才気が恰も寝かせすぎて気の抜けたワインの如しで念願叶って良かったねが精々である。(cinemascape)