★★★★ 2023年8月3日(木) 大阪ステーションシティシネマ6
「童夢」にインスパイアされたと聞いて期待と失望予感を半々に抱いて見た。
大友克洋の原作をを読んだのは学生時代に先輩の部屋に転がってたのをたまたま読んだのが最初であったが、あまりの凄さに帰って即自分でも買い、以来折りに触れて読み返してきた。半世紀近く経って引っ越しを繰り返すうちどっかにいってしまいましたが。だけど、大友最高傑作だという確信は揺るぎないのである。
【以下ネタバレです】
原作にあったゴアな描写や空間を飛翔するパノラミックなダイナミズムは見られない。小振りで大人しい印象だが、それ以上に爺さんVS少女のタイマン対決構図を1人の少年VS3人の少女たちに変えたのが残念に思いました。
半ボケでニコニコしながら日向ぼっこしてる小柄な爺さんの内に潜む邪な本性、という剣呑極まりない稀有な設定は少年に置き換えることで有りがちなジュブナイル少年エスパーもんの範疇に収まってしまう。「AKIRA」鉄雄に近い設定が施されているとも思うし、映画「クロニクル」を連想したりもした。
それでも、本作の美点は少女たちの描き方で、姉妹ともう1人の少女の関係性。少女たちと書いたが姉はハイティーンだろう。重度の発達障がいで他者とのコミュニケーションは全くできない。妹はそんな姉に近親憎悪とも言うべき感情を抱く。そんな姉が能力者であるもう1人の少女によって覚醒する。そのことは妹の心にも変化をもたらす。
ラスト、ブランコに乗った少年と池の対岸から対峙する姉妹。原作と全く同じ終焉だが、違うのは姉妹の関係性の大きな変化を感じさせるところだ。これが涼風のような清々しさを与えている。
童心還りを逆手に取る剣呑の代わりにイジケ少年を配してジュブナイルなエスパー少年ものに埋没しかけたが、相対少女を3分割して覚醒の継承譚にしたのが新味。姉妹の近親憎悪が相互理解に至る様は鮮やかに感動的だ。異能表現も派手さはないが深淵とも言える。(cinemascape)