「あ、ろ〜ん、ぼくらは〜、あ、それぞれの、お、はなを〜」
「…なんだ?」
「だいて〜、え、うまれた〜、あ、めぐりあう〜、う、ために〜」
「そんだけコブシきかせたんじゃB’zもド演歌だね、どうしたんです、珍しく歌なんか歌ったりして」
「どうもこうもあるかよ」
「はー」
「またぞろ出ちまったじゃねえか、緊急事態宣言がよ」
「仕方ないんじゃないっすか、こんだけ感染者が増えちまったら」
「飲食店の時短はともかくよ、酒の提供ご法度ってのはおかしいだろ」
「いやいや、それが勘どころでしょうが、酒飲んだら大声で騒いじゃうんすから」
「そんなの人それぞれじゃねえか、美味いアテ食って美味い酒飲んで、一人しみじみ人生の余韻に浸りたい奴もいるんじゃねえか」
「あんまり見たことないっすね」
「見たことないなら見せてやるよ、俺の考案したALONE酒場でよ」
「それでB‘zね」
「お一人さま限定、私語厳禁でさ、美味いもん食って美味い酒飲んで浸りたい奴いらっしゃーいよ」
「…」
「根っこから全ての人流止めようたって、そうそううまくいくわけねえぜ」
「そりゃね」
「水源池で馬が馬糞たれたからって上水道止めちまったら市民は干上がってお陀仏だ」
「馬糞って」
「川下でみんなが濾過して飲めばいいのよ」
「濾過ね、せめて浄水器にしません」
「おい、ハチ公」
「へい」
「ひとっ走り行ってあの方にご報告だ、喘ぐ飲食店の人たちを救ってやらねばなるめい」
「…」
「大鉈振るうのもけっこうだが、振り方まちがえた日にゃあ取り返しがつかねえ」
「…」
「おい、とっとと行きやがれ」
「いやあ、さすがにALONE酒場は厳しいっす」
「なんで」
「一人飲みなら自分の部屋で飲んでる方が気楽っすから」
「そりゃそかもね」