男の痰壺

映画の感想中心です

レジェンド 幼年期の終わり

f:id:kenironkun:20200730135945j:image

あれは2020年、今から20年前のことじゃ。コロナで世界が変わってしまったのじゃ。

なに、はー?よう聞こえんのお、もっとでかい声で言ってくれんと。そうじや、今では当たり前にかかって誰も気に止めないコロナじゃ。

最初の2年くらいは、皆じきに薬さえできれば治るもんと思っておった。じゃが薬ができたと喜んだのも束の間、コロナは次々と抵抗力をつけて変質していった。イタチごっこじゃな。期待と失望が人心を苛んで世界にはキナ臭い空気が満ち溢れておった。

 

2025年じゃったかの、1人の男が現れたんじゃ。最初は小さな声で周囲の者に語りかけるだけじゃったがの、徐々に声を聞きたがる者も増えてきたんじゃ。彼の言う「自然に任せよう」が疲れ切った人々の心に馴染んだのかの。

2026年に彼は「避けるな治すな」を唱える新党「アカルイミライ」を立ち上げ選挙に立った。若者たちは彼を最初から支持していたが、問題は年寄りじゃった。コロナ野放しの洗礼は年寄りを直撃する。事実、それまでの5年間で1000万人の年寄りが死んでたんじゃ。

彼は全国の都市部の老人たちを説いて回った。多くの年寄りは彼を拒否したし、悪し様に言う者も多かった。「ヒトラーの再来」とも言われた。だがの、それでも彼は憂いを帯びた目で静かに説得を続けた。

徐々に彼の言うことに耳を傾ける年寄りも増えてきての。世の中も疲弊し切っておった。失業率は30%に達し、あちこちで犯罪は増加し続けておった。

結果、アカルイミライは政権をとって、ウェルカムコロナ政策か執行されたのじゃ。2020年には60%じゃった高齢者の人口比率は急激に下がり20%になった。2000万人があの世に逝った。

 

社会補償の減少で急速に改善した財政をバックに彼は若い世代に湯水のように金を投じた。保育園から大学まで、塾や予備校、専門学校まで全て無償化し、子供手当は年間100万をこえた。出生率は一挙に改善し3に迫った。

新しい産業が次々興され空前の投資ブームが再来した。今ではコロナ革命と呼ばれる第三次産業革命じゃ。そして、2030年、軌道に乗った日本の再建を確認して彼は忽然と姿を消したのじゃ。

 

彼が何者じゃったかだと。

国籍、年齢も本当のところを知る者はなかった。ケニー・龍と名乗っていたが、人々は親しみをこめて、けにろんと呼んだものじゃ。

なに、わしが彼じゃないかじゃと。ガハハハ、単なる一介の生き残り老人じゃよ。