男の痰壺

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空白

★★★★ 2021年9月26日(日) MOVIXあまがさき3

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「BULE」と本作で個人的に吉田恵輔は今年の監督賞確定と思わせます。力作である。

 

想像されるような、思い込みで未必の不可抗力としか言いようのない相手を執拗に追い詰めるモンスター親爺をデフォルメして描いたものではない。映画はその先にあるものを描こうとしている。

 

まず、その前に彼らは生活者であるし、その為には働かないといけないことを丁寧に描いている。互いの先鋭化した確執とは切り離されたところで日常の営為があるわけです。そして、そこでも色んな問題は起こってくる。そういう分厚い世界の構築が為されている。

スーパーの2代目の松坂桃李が述懐する父親臨終の件など、経験の裏打ちがないと書けないものに思える。前作に続いてオリジナルシナリオでこれができるのも吉田恵輔の強みと思いました。

 

古田新太の父は、粗暴で短気で粘着て自己中でズルい野郎だが、ただ娘の死に後悔と疑問をもって対峙していることに偽りはないわけです。そこが、自己承認要求のみに根ざした大方のクレーマーと言われる輩とは明らかに違う。終盤の展開に一抹の明るさと納得性を与えている所以と思えます。

 

日々のドン詰まりを弥増させる寺島のキャラやクソ親爺の両面性を表出させる季節といった対峙する2人を取り巻く世界の造形が厚みをもたらす。自己承認クソ喰らえのブルドーザーが蹴散らした泥濘にも小さな花が咲くだろう。それは見るものが承認する。(cinemascape)

 

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