★★★★★ 2021年12月20日(月) シネヌーヴォ
3話のオムニバスなのだが、1話目の冒頭からタクシー内で延々と女のノロケ話が続く。「私の彼氏めっちゃイケてるねん」とか「可愛いとこあんねん」とかの他愛ないものならまだしも、自己肯定を交えた女の世界観語りに大概ウンザリする。これが濱口の世界観の投影なのだとしたら俺もうムリと思わせるのだが、鮮やかな転倒が到来する。
3話ともに、そういう風に世界がクルリとひっくり返る物語で、それが想定の枠外から来る作劇は才能と言うしかないと思います。「ドライブ・マイ・カー」の高評価を斜め横から見ていた俺は本作で平伏する思いだ。
3話目が特に好きで、ギャグとしか言えないシチュエーションが日常に起こったときに、「あちゃーマジ?ちゃんちゃん」で済ますところを、食い下がって掘り下げて想いを吐露させる。これは人間好きにしかできない剛腕だ。
ロメールやホン・サンスに準える向きもあるみたいで、そういう先行批評に倣うのも癪ですが、確かにこのシニカルと人間肯定の同居は先の2人を思わせます。でも、1話目のズーム使いはホン・サンスかと思わせて、ちゃんと意味がありました。
想定の枠外から起動される世界の転倒3題噺で、そのシニカルと併存した人間肯定が濱口の稀有な天分とさえ思わせる。人と人が出会えばドラマが生まれるっても事はそう簡単じゃない。好きも嫌いも呑んで感情を寄せるふりしてうっちゃる。驚く位に軽やかに。(cinemascape)