男の痰壺

映画の感想中心です

ゆがんだ月

★★★ 2023年11月20日(月) シネヌーヴォ

クレジットの主演・長門裕之、撮影・姫田真左久、音楽・黛敏郎という面子を見て今村の「豚と軍艦」を連想したんだけど、それに殊更の意味があるわけではない。でも、後世に名を留める留めないに分かれた両作も同じプログラムピクチャーの枠組みで撮られていたんやなーとは思わせる。

 

それにしても大概なクソ野郎の話で、自分に惚れてる女給上がりの女を袖にして、若い清純可愛い子ちゃんにのぼせあげて、そっちがダメだったから元サヤってか、ふざけんなって話なのだが、映画は殊更に男を断罪しません。むしろ何だかヒロイックな結末を迎える。

 

まあ、それでも色々面白かった。改めて若い頃の長門裕之はこういう三下を真ん中で演らせると魅せるなーと思わせる。クズが主役なのに気がついたら肩入れしそうになる。

 

ヤクザの組織の内紛をチクって組織から追われるんだけど、追ってくるのはたった1人の殺し屋だけで、やたら口笛吹いて長門をビビらせる。東宝なら岸田森とか天本英世がしそうな役だがここでは神山繁です。

前半のマジ路線で鬱々な展開が、岡本喜八か日活ニューアクションかの如くの虚構の出現で反転しかかるのだが寸止めだった。反転し切っちゃえば清順になれたのにね。

 

寸分の肩入れできぬ振子野郎だとしても長門の切迫表現が三下の悲哀を伴い反感を緩衝する。陰から気障に口笛でビビらせる割には正々堂々の決闘申し込みの少年漫画世界だが陰調を反転させる寸前で踏み止まる。南田の心根が漂うままなのがせめての良心。(cinemascape)

 

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