男の痰壺

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小説家の映画

★★★★★ 2023年7月4日(火) シネリーブル梅田3

「あなたの顔の前に」で登用して成功したイ・ヘヨン再登板であるが、キム・ミニとの連作がある種の行き詰まり感を呈していただけに、ホン・サンスやる事なす事上手くハマってしゃーないの境地であろう。

 

格段のやることがあるわけでもなく、ぶらぶらそぞろ歩きしたりして、これ又定番の飲み会があるという毎度の展開であるが、いちいち面白すぎる。展望台で顔を合わせづらくて逃げてる映画監督っつーのがこれ又毎度のクォン・ヘヒョだったあたり思わず「出たー」と思いました。

 

スランプで筆を置いている小説家が、たまたま会ったこれ又休業中の人気女優に藪から棒に映画撮りたいから出てくれと言う。何でもずっと彼女のファンだったらしい。

この互いによくも知らない2人が後日飯を食いに行くが、どんな映画撮るのか小説家は言わない。これから考えるのだそうで、まあ、実際そんなもんだろう。女優もまあいいかみたいな感じで話は終わり。あとは、これ美味しいわ、食べてみる?みたいな薄ボンヤリした会話の体たらくである。

会話の途中で少女が1人レストランの窓越しに2人を見ている。あんまり見てるものだから女優は先を立って外に出て少女に話しかける。会話の内容はわからない。こういう小ネタによる躱しの巧さはセンスやと思います。サンスのセンス、シーン、閉店ガラガラ。

 

まあ、その映画とやらがどんなもんなのかっていうのが一応の物語の牽引要素なのだが、本作では真正面から勝負した感がある。「逃げた女」でスクリーンと対峙するキム・ミニの見つめる先のものは映し出されることがなかったわけだが、本作ではちゃんと見せてくれます。モノクロームの本篇がカラーに転ずるあざとさも正面突破の覚悟が据わって唯一無二の鮮やかさとなっている。

 

ザ・ホン・サンスとでも言うべき歩きと飲みの映画だが、硬質なヘヨンを真ん中に据えて軸が通ってキム・ミニの気取らない居住まいとヘヒョの居た堪れなさがベストなバランス。総括的な好編となった。岩井みたいな締めにも覚悟が窺える。(cinemascape)

 

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