男の痰壺

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ベイビー・ブローカー

★★★★ 2022年7月4日(月) MOVIXあまがさき1

疑似家族めいた展開が「万引き家族」の変奏バージョンみたいで目新しさがないってことで評価は今一のようである。それは否定もしないけど、それでも尚本作の持つ強度には惹かれる。

おそらく、この題材が日本映画として撮られていたら手垢感は免れなかったろうし、或いは韓国の監督によって韓国映画として撮られていてもソン・ガンホぺ・ドゥナといったキャストに今更感を拭えなかったろう。

他国の監督を迎えて言語の壁という障壁を共に乗り越えようとする現場の一体感みたいなものと言えばいいか。一歩間違えれば空中分解しかねない均衡を是枝は手中にしている。フランスで撮った前作「真実」での経験から自信を得たのだろう。このあとアメリカでの製作を模索してると言うのだが是非実現してほしいと思いました。

 

幼児売買と言えば、醜悪極まりない臓器目当てというのが世界の本流なのだろうし、であるから闇で取引されるわけで、この映画のような養子縁組みたいなことなら正規ルートでいいんじゃないかって思いました。

そのへんの設定の疑問はあるのだが、常道の赤ちゃんを連れ歩いてる間に情が移ってみたいなベタには当然ならない。寧ろそのような展開には端から興味がないようだ。是枝が展開する物語は、そういう棄てられた子どもがどうすれば幸せになれるかを模索する。そのへんが万人が納得するクリアな展開にならなくても真摯に隘路を縫った感はあるのです。

終わってみればダークさのかけらもない性善説にのっとった話なのだが、お為ごかしな感じは微塵もない。

 

ショットの切り方も随所で冴えている。反目しあっていたカン・ドンウォンとイ・ジウンが言い合いした翌朝に窓から海を眺めるシークェンス。かすかな風がジウンの屈託を洗い流す。鮮やかであった。

 

大甘設定にも思えるが棄児がどうしたら幸せになれるかの道筋を隘路を縫い希求した是枝なりの回答。未踏の次元に到達したかはともかく他流試合の醸す緊張が張りを画面に与えて今更感を払拭。喧嘩の翌朝、海風が屈託を洗い流す。鮮やかなショットの連結。(cinemascape)

 

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