男の痰壺

映画の感想中心です

逃げきれた夢

★★★★ 2023年6月20日(火) シネリーブル梅田3

見た後、一瞬すごい傑作のような気もしたのだが。

それは、独特の表現スタイルによるもので、対話の際の切り返しに人物ナメのショットが一つもない。明らかに小津映画のようであるし、無言のリアクションを厭わないショットの連鎖は攻めてる感濃厚です。巷間言われてるようにラストのそれは四宮の撮影の深みも際立ってちょっと神がかってると思います。

 

死期が迫って、俺の人生これで良かったのかとの思いを描く映画って今更感さえあるし、また本作はその中身も薄い。娘ともっとコミュニケーションとっとけばとか、セックスレスだった女房ともっとやっとけばとか、ずーっと疎遠だった旧友を訪ねて飲みに行くけど大した話もないとか。

でも、そういった内実を伴わない展開も俺は有りだと思ってます。代わりに表現手法に何かを言わせるのも映画の在り方として寧ろ好ましい。そういうのは好物です。

 

しかし、にしては、この映画は随所で述懐の台詞がいささか過剰で、特に女房と娘を前に光石研がグダグダ言う場面は全体のトーンから遊離している。遊離してる上に言い訳がましくしんどい。旧友の松重豊との絡みくらいの何もなさがちょうど良いのにと思いました。そういうのがなければ★5つけたかもしれません。

 

それにしても、光石研の「波紋」との役の被りは偶然にせよ大概で、見た後なんだか混濁してしまいます。いや、誰が悪いってわけじゃないんですけど。演ってて役が混じらなかったのでしょうか。そういう意味で主演男優賞ものだと思う。

 

己が人生を振り返り何某かの後悔を抱くけど何かをし終えて終わりたいみたいな命題もない。でもそこにある筈の屈託を変則小津めいた切り返しの間に埋めて間隙を四宮の絶妙な露光が補填する。その手法への確信は時に過剰な台詞が煩わしく思えるほど。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com