★★★★ 2024年10月28日(月) シネヌーヴォ

✳︎今回のファスビンダー特集上映では「自由の暴力」のタイトルで上映されたが以前からの自主上映等で用いられたタイトルの方を採りました。
スカンピン男が宝くじで大金を手に入れるが富裕層の連中にいいカモにされて身ぐるみ剥がれるという身も蓋もない話です。
ファスビンダー自身が主演して初めてゲイであることをカミングアウトしたものらしいし、映画でもゲイコミュニティが描かれる。にしても70年代にしてこの先取性はなんだろかと驚いた。そこではゲイであることはさして特殊でもないし親兄弟も周りの人たちも普通に受け入れて殊更な偏見は無いようだ。
特筆すべきは語りの省略であり、なんといっても序盤で宝くじに当たったことが判る瞬間といった最もエモーショナルであろう筈のシーンが無い。ファスビンダーが描きたいものに注力するには不要と見做されたわけだろう。先述のゲイに対する偏見とかが無い世界もそれと等位なのかもしれません。
金持ってるうちゃあ下賎な男でも金づるだから我慢もしますけど、それが底尽きれば用無しだわさ、っていう搾取側の論理。それに踊らされ貪り尽くされた男の純愛。ファスビンダーはともに冷徹に突き放して描いていく。ブレッソンやベルイマン系譜のリアリストだ。
ミヒャエル・バルハウスの撮影が特筆もんで、その深みはファスビンダーとの共闘作では最高位と思われる。渡米後にスコセッシに重用されるが、これに匹敵するのは「ディパーテッド」くらいと思います。
特筆すべきは語りの省略でファスビンダーが描きたいものに注力するに不要と見做されたのは偏見とかも等位なのだろう。搾取側の論理とそれに踊らされ貪り尽くされた男の純愛を冷徹に突き放し描いていく稀代のリアリスト。バルハウス撮影の膨よかさも。