男の痰壺

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ダムネーション 天罰

★★★★★ 2022年2月17日(木) テアトル梅田2

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以前「ニーチェの馬」を見たとき30分で語れることを2時間半かけていると書いたことがあるが、タル・ヴェーラのスタイルを確立したと言われる本作を見て、昔からそういう人だったのねと思った。

1イシューをギュウギュウに凝固させて嘗め倒すように語る。その強度は凄まじい。

 

男がフラれた人妻のアパートへ行って「縒り戻してくれよ」と泣きつくとこから始まる物語は、そういう情けない下世話な市井譚とは程遠い荒んでハードボイルドな基調で語られる。

不況下の炭鉱町という舞台の殺伐が寓話性を付与し何か深淵な物語が語られているような錯覚を抱かせるが、これは、ダメでクソな男と女と男の話なのだ。

 

その一片の妥協もない突き放しは、全てを失った男が荒地を彷徨い出会った野良犬と同じ地平に堕ちるシーンで境界を越えてしまう。段取りでできるものではない何かが映画に憑依したとしか思えない。

 

矜持の欠片もなく人妻に復縁迫る男だが内面の葛藤や斟酌など無いようで只管にハードボイルド。不況に喘ぐ炭鉱町の切り取られた景観が研ぎ澄まされて男の虚無を照射する。そして堕ちた男は彷徨う荒地で躊躇いなく野犬と等位となるだろう。凄まじいまでの無情。(cinemascape)

 

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