★★★ 2022年10月16日(日) プラネットプラスワン
見終わって反芻してみれば、この犯人像は相当に踏み込んだものなのだが、見てる間はそういうことは余り感じない。あまりに異常な殺人鬼がさんざ描かれてきて俺たちはマヒいてるからだろう。障がいのある女性ばかりを惨殺するサイコキラー。彼は終盤まで姿を見せません。見せないことに意味のある構成だから仕方ないんですが。
障がい者=生きてる価値のないものとする犯人の持論は予想外にナマナマしい。それなら「ダーティハリー」のスコルピオみたくギタギタにしてやりたいようなクソ野郎とした方がスッキリするんですが。
監督のロバート・シオドマクはナチスが勃興するドイツからの亡命者らしいので、この優生思想はヒトラーに重ねていたんじゃなかろうか。
スリラーの古典として評価を刻まれてる作品みたいだが、やはり今見るとインパクトに欠ける。シオドマクの演出はきっちりして品格があり良いのだが、何せあんまり怖くありません。犯人登場の度にギラついた目のアップが挿入される。当時はさぞインパクトがあったんでしょうが、今では数え切れないくらいに繰り返された描写だ。
主演のドロシー・マクガイアは新人だったこともありビリング7番目。トップはエセル・バリモア。ライオネル・バリモアの妹でドリュー・バリモアの大叔母です。彼女のポジションが一風変わった本作の異端性を辛うじて繋ぎ止めてる気がします。
優生思想に基づき惨殺し続けるという一方ならぬキャラ設定にしては、その殺人鬼の描き方がぬるい。全てを察知してるらしいエセル・バリモアも傍に居続けるので終盤が唐突でカタルシスに繋がらない。演出に抑制があるだけに目アップの反復は余計に思える。(cinemascape)