男の痰壺

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ビデオドローム

★★★ 2023年6月21日(水) シネリーブル梅田4

何か得体の知れないものがジワジワと侵食してきて、つれて世界も変容していく。こういったモチーフをもとにポランスキーやリンチとか多くの映画作家が傑作をものにしてきたわけだが、クローネンバーグのこれはどうやろか。

 

ビデオドロームなるアングラ海賊放送がその得体の知れないものなんですが、それがどうにもインパクトに欠けます。実際の拷問や殺人が映されてるものらしいのだが写ってるもんがはっきり見えない。それは、もっとおぞましく禍々しいものでなければと思うんです。

 

一緒にそれを見た彼女が失踪して、やがてビデオドロームの中に写っているのを発見するなんていう展開は真っ当にドラマラスなのだが、クローネンバーグはそんなドラマに興味がないので全く描きこまれません。もったいないと思う。

 

終盤で妄想に絡め取られた主人公に、銃と体が一体化するイメージがあって、もろ「鉄男」やんと思ったらこっちの方が何年も先でした。寧ろ「鉄男」が影響受けてるのかも知れません。何にせよ、この辺りで欠落した禍々しさを補填しているが本尊じゃないんです。尚、造形担当はリック・ベイカーです。

 

クローネンバーグの初期作品はほとんど未見で、「デッドゾーン」や「ザ・フライ」とかの商業主義と折り合いつけた作品もやってくれないかなと思いました。

 

不可触の得体の知れないものに接してこちら側の世界が変容していく。そのモチーフは良しだが肝心の得体知れずな海賊放送の中身が何が写ってるか判らん体たらくでは慄きは遠い。だからデボラの件も切なさに結びつかない。禍々しさは人体変容に収斂される。(cinemascape)

 

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