男の痰壺

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ドラキュラ デメテル号最期の航海

★★★ 2023年9月11日(月) 大阪ステーションシティシネマ

証文の出し遅れみたいな今更のドラキュラに食指は動かなかったのだが、監督が「ジェーン・ドゥの解剖」の人だと知って見る気になった。力量のある人だと思うし、本作でも画力の強さは随所で見られます。ですが、所詮はやっぱ今更のドラキュラでした。

 

ルーマニアからイギリスへ向かう貨物船に沢山の木箱が運び込まれる。実はその中の1つにドラキュラが潜んでいたのであった。逃げ場のない閉塞空間で1人また1人とドラキュラの餌食となっていく船員たち。その設定から監督の頭に「エイリアン」があったそうだが、そうするとクリストファー・リーのような紳士ではそぐわず、ドラキュラはシン・仮面ライダーの怪人コウモリ男みたいな単なる化け物になるのであった。肝である耽美性は放逐されたのだ。

 

ドラキュラの携帯食としてトランシルバニアから連れて来られた女がいて、普通ドラキュラに咬まれるとその人も吸血鬼になるのだが、船医が輸血を施して辛うじて人間でいる。この女が後半に大きく前面に出てくるあたりが目新しく、成功してるし彼女も凛々しい。でもその分、主人公の船医は存在感が薄れ、バランス感の不均衡が惜しまれる。割り切って彼女主軸でプロットを最構築すべきだった。2人の別れはある程度崇高なものになり得ていたと思うので尚更。

 

ウーヴレダルは『エイリアン』でなく『2』を念頭に置くべきであった。さすれば本作で唯一見る者の心を打つヒロインの侠気も報われただろう。美術や装置が醸す時代色など見応えあるのだが、肝心のドラキュラに剣呑なエロティシズムが決定的に欠けている。(cinemascape)

 

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