男の痰壺

映画の感想中心です

かくしごと

★★★★★ 2024年6月10日(月) 大阪ステーションシティシネマ

関根光才の前作「生きてるだけで、愛」はメンヘラの女性を主人公としていた。そして、今作の主題は介護と虐待。つくづくしんどいテーマを選んでくる人やなーと思う。そのへん三宅唱と通じるものがあるし、単純に尊敬します。

 

【以下ネタバレです】

認知症の父親の介護と虐待されてた少年の保護という2つの難題を抱えてしまった女性が主人公だが、終盤で介護の問題は放逐されてしまう。それに関わってるどころじゃない状況が起こるにせよ、物語の構成としてひっかかる点ではある。

にも関わらず★5としたのは、鮮やかすぎる終局の少年の2つの発言で、語られてきた世界の転倒とどん底からの救済が同時に怒涛のように押し寄せる。それがトリッキーでもなんでもない点も演出の確固たる信念を思わせる。

 

親の問題は放逐されたと書いたが、それも奥田瑛二の述懐によって、主人公の杏にとっての積年の蟠りが氷解する。彼女は幼くして亡くした我が子へのトラウマとの2つの心の閉塞を解き放たれるわけだ。世間の通り一遍の常識から脱構築された地平で彼女と少年のこれからは再構築された。たまらなくハードボイルドである。

 

役者の演技も素晴らしかった。特に佐津川愛見の事故現場での芝居には唸らされた。「しっかり映画を撮ってる」と感じさせられた現場だったそうで、そういうハイボルテージの入れ込みの連帯を形成できれば監督としては勝ったも同然なのだ。前作のみではまだわからないと思っていたけど今後も期待できると思いました。

 

認知症のリアルにせよ終局の証言にせよ何ひとつ常道から躱すことなく一歩違えれば凡庸の謗りの手前で関根の確固たる信念が結実する王道。世間の通り一遍の常識から脱構築された地平で彼女と少年のこれからは再構築される。たまらなくハードボイルドだ。(cinemascape)

 

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