男の痰壺

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深夜の告白

★★★★ 2019年5月19日(日) プラネットスタジオプラス1
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何かと逸話の多いワイルダーの初期作で「ファムファタールの原型とも言われてるらしい。
しかし、1時間半という尺の為に駆け足めいた点は否めないのだ。
 
保険屋の主人公は資産家の家を自動車保険の更新で訪れる。
そこで、後妻であるバーバラ・スタンウィックと出会う。
その初出シーンで彼女はいきなり裸で登場(もちろんバスタオルみたいのを巻いているが)。
と、いきなり直球を胸元にたたきつけられる。
そのあと、主人の不在をいいことに、彼女は亭主に内緒で死亡保険をかけたいと言う。
主人公は、一瞬にしてその剣呑な提案の真意に気づく。
「このクソアマやろう」って感じで即座に辞する。
 
このあたりの展開はチャンドラーが脚本に参加したというだけあって、惚れ惚れするハードボイルドだ。
しかし、その晩に女は彼のアパートを訪ねてくる。
どうも、彼は直球でたたきつけられた残像に惑わされたのか、女の提案に応諾する。
このあたり、えっなんで?な展開。
もっと、手練手管で男を篭絡するファムファタールとしてのあれこれが見せ足りないんじゃなかろか。
 
このあと、映画はどんどん転がる展開に任せてズルズル蟻地獄に落ちていく男を追うので、疑念にかまける暇のないのだが、それでも肝のこの部分はもう少し描くべきだった。
 
本作では、主人公の同僚である調査部署のエドワード・G・ロビンソンが警察の役割を演じて、主人公と仲がいいってのが又味わいを醸す。
常に葉巻を吸うのにマッチを切らしてるってのがワイルダーらしい設定で、主人公がげんなりしつつ親指でシュパっとマッチをする行為が繰り返される。
そして、何度目かに「ええかげんマッチ買いなよ」ってのがピタっとはまって効いてます。
のちの「コロンボ」なんかにも踏襲された意図せぬ心理効果だと思う。
 
ファムファタールに拮抗するハードボイルドはワイルダー流の語りの澱みなさのまえに雲散する。ただ、それはそれで流れを担うG・ロビンソンの妙演もあり愉しくもある。振り切ったが再度の攻めで敢無く篭絡される肝を更なる粘度で描けてればと思うが。(cinemascape)