男はつらいよ 旅と女と寅次郎
★★★★ 2020年9月19日(土) 大阪ステーションシティシネマ5
まさかアンコ椿で泣けるとは思わなかった。
「男はつらいよ」全48作劇場鑑賞の掉尾だとの思いが、狂おしく俺の涙腺を刺激してやまない。そんな感情が湧き起こるなんて思ってもみなかった。
この映画を今までなんで見なかったのかと思うに、都はるみに全然萌えないという1点に尽きたのだが、前半のスターの衣を脱いで1人の女となったはるみは、存外に可愛いのだ。明るく振る舞いながらも時折り影さす表情が、あーまっこと切なげでたまりません。
後半になって、スターの日常に戻った彼女が、テレビの収録やコンサートで歌う姿は、よく見知ってる都はるみそのもので、そこには全く萌えません。
この落差が、けっこう来て、それは、そのまま寅の心情にシンクロしていく。
「ローマの休日」もどきのベタ展開に見えて、実のところはかなりに多重なメタ構造をもっている。山田洋次が計算してやったわけじゃないんでしょうが。
手の届くわけない違う世界の人に想いを寄せる。一瞬、或いは二瞬三瞬手が届くかに思える。前半の民宿の場では、はるみもあわやというくらいグイグイ寅との間合いを詰めてくる。でも現実はそんなことあり得ないわけです。
市井人のマドンナとじゃないおとぎ話か世知辛いシリーズと親和するのかという懸念は、都はるみの庶民性が補って余りあると思いました。
庶民版『ローマの休日』めいた御伽話が、鄙びた民宿2階部屋で素をさらけ出した都はるみが浴衣姿で寅との間合いをつめるリアリズムで地に足がつく。寅屋縁側でのアンコ椿の華やぎの裏で哀惜かみしめる寅とさくら。シリーズ稀に見る楽曲使用による外連味。(cinemascape)
おもひでのしずく (2010年3月8日 (月))
※おもひでのしずく:以前書いたYahoo日記の再掲載です。
沈没への誘い
先週の金曜日に本屋で「2014年日本国破産」(浅井隆著)という本を立ち読みした。
日本の財政赤字についてはアホほど本が出てるが、こいつは今までで最もピンとくる内容であった。
何故なら、こに本では、日本が財政破綻するのはもはや不可避と明確に書いてあるから。
タイタニック号の沈没になぞらえた破綻過程。
何かにぶつかったような気がしたが、気にするな~とドンチャン騒ぎのパーティ会場。
その間、船底では怒涛の勢いで浸水がすすんでる。
何かちょっと傾いてない?…気にしない~!とドンチャンドンチャン。
あれ、物転がりだしたよ。甲板出てみよか…。
と思ったときは遅かった。一気に垂直状態に屹立した船体は哀れ海の中に轟音とともに沈んでいくのであった。
破綻の過程で、あるいは破綻後に何が起こるか。
金利の劇的上昇のあとにハイパーインフレが発生。
米国債売却を阻止するためIMFが介入、預貯金は凍結され没収される。
であるなら、悪くもないやん。
なぜって俺は預貯金ゼロやし、一方で住宅ローンはアホほど残ってる。
借金はインフレで目減りし、お金もってる人たちは没収される。
でも、生活は激変するんやろな…。
仕事を失くし、芋で生活する日々が到来する。
悠長に映画みてるなんて今だけやね。
というわけで、土曜日。
映画三昧の道行に赴く。
TOHOシネマズ梅田で「ハート・ロッカー」
梅田ブルク7で「人の砂漠」
天六ユウラク座で「奴隷船」
とまあ、「ハート・ロッカー」はともかく、あとの2本は気が滅入った。
俺は、愛染恭子もSMもそんなに関心はなかったが「奴隷船」には多くの団塊世代と思しき親爺どもが馳せ参じていた。
映画が終わって俺は席を立つ。
そそくさと映画館の暗闇から出ていく親爺ども。
その多くの疲れ切った背中を見つめながら俺は涙する。
「お疲れ様です、先輩方。ともに奈落に落ちましょうぞ!がーはっはっは!」
黄色い星の子供たち
★★★★ 2012年4月21日(土) 新世界国際劇場
若干食傷な題材なのだが、ロケやセット美術にしても役者の演技にしても、描くべき事象に愚直なまでに正対し一切逃げてない。そこに心打たれる。通常避けても構わないヒトラーまでもが当たり前のように描かれボロも見えない。演出が大構えで素晴らしい。(cinemascape)
007/ユア・アイズ・オンリー
★★★ 1982年3月10日(水) 伊丹グリーン劇場
『ムーンレイカー』の反動と言われるほどには生身のアクションを突き詰めたとも思えないのだが、ロマネスクの片鱗のようなものは若干窺える。ただ、あくまで若干であって適度なのがシラけるところだ。巷間噂されたスピルバーグ登板作をこそ見たかった。(cinemascape)
ミッドウェイ
★★★ 2020年9月13日(日) MOVIXあまがさき10
エメリッヒとマイケル・ベイってどっちがどっちだったかわかんなくなるのだが、「パールハーバー」がマイケル・ベイですか、未見ですが。何れにしても、両方ともドッカンボッカン大好きの深く考えるタイプじゃなさそうなので、そんな映画だと思って見に行きました。
そして、やはりそんな映画でした。
歴史を紐解くようなポリティカルな視座はほとんどない。日本軍の暗号を解読したことが形勢を決したようだが、その解読に至る過程はお座なりであります。
だが、冒頭で真珠湾攻撃から描かれるにしては、卑怯千万なジャップ野郎みたいな情緒的なモーメントもあまりない。日本市場を意識すればこういう描き方になるんだろう。
結果、淡白な戦局の羅列に終始するしかないわけです。
エメリッヒは急降下爆撃機の機載映像に刺激を受けて、この映画を撮るモチベーションに結びつけたと言っている。実際、本作の白眉は急降下爆撃のシーンで、そこはものすごく力が入っていたと思います。
その他、空母からの発艦の際、艦速が足りず海中に飲み込まれる僚機など、新鮮なエピソードもありました。
篇中、作戦に従事している海軍パイロットたちが、あいつら何してるんやと沖合の空母を見て言う。それは、空軍のB29で、彼らは海軍の作戦とは別働で日本の本土に焼夷弾を撒き散らしに行くわけだが、焼夷弾積みすぎて帰りの燃料積めない。仕方なく中国大陸に降下して現地のパルチザンと合流する。
中国資本も入った映画だから、中国人もどっかで出さないと仕方ないのかも知れんが、原爆投下と並ぶ歴史的ジェノサイドの背景として描かれたにしては余りにお気楽で、日本人としては引く部分ではあります。
双方向に気を遣った戦局羅列映画で本当は局面の間にあったことを考察せねば今撮る意味もない。大局観に欠けるエメリッヒの志向はディテールへ向かい急降下爆撃の描写は見応えあるし発艦失敗の件など目新しい。東京空襲の空軍挿話は忸怩たるものがあるが。(cinemascape)