男の痰壺

映画の感想中心です

KOTOKO

★★★ 2012年4月7日(土) テアトル梅田1

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分裂症で育児ノイローゼであるということを映画的なカタルシスへ導く術が塚本にあるわけでもなく、歌を歌わせることも思い込みの範疇を出ない。ただ、マゾヒスティックにボコられることで奉仕したいらしい気持ちは健気だ。音とカメラのハッタリは飽きた。(cinemascape)

 

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タップス

★★ 1982年4月14日(水)  SABホール

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少年達が守ろうとするものが旧時代の軍事的遺物である点をアイロニカルに掘り下げて問題提起でもしてくれるならまだしも、ブラッドパック街道まっしぐらのモロ商業路線に乗っかった代物として提供されると戸惑う。何より編集が小賢しく鼻につく。(cinemascape)

mid90s ミッドナインティーズ

★★★★ 2020年9月12日(土) シネリーブル梅田4

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行き場のない少年が、スケボー仲間と出会い経験を積んでいくという幼年期の自我の芽生えもんなのだが、この少年が本当にいい。

 

俺くらいの歳になると、世俗の色気から遠ざかり枯淡の境地に達しつつあるので、街中で小さい子どもを見かけると素直に可愛いと思えるようになってきた。孫願望である。

そういう親父から見て、この子どものひたむきさや感情表現の素直さは直撃してくる。

 

おそるおそるグループに近づき声もかけられずにいる彼が、初めて水を汲んできてくれと命じられたときの喜びの表情。ああ、なんて素直でいい子なんやろかと思っちゃいます。

子役としてのキャリアもあるようなので素人じゃないのだが、おそろしく自然だ。演出の力なのか、そのへんはわかりません。

 

一方で、少年を受け入れる4人もいい。彼らは俳優ではなくスケーターらしいのだが、リーダー格のレイを演じるナケル・スミスの透徹した眼差しと物腰。彼がメンバー全員の来歴を少年に語ってきかせる場面は篇中の白眉だ。

 

シングルマザーの母親がキャサリン・ウォーターストーン。「インヒアレント・ヴァイス」から「ファンタビ」への変容にも驚いたが、疲弊しつつもヤンキー気質を滲ませる今回も魅せるものがあった。

 

総じて、ジョナ・ヒルが統べただけに役者の映画と言っていいんじゃないかと。

90年代を再現する意匠や16ミリフィルムの質感など、こだわりもあったと思うけど、フィルムの中に息づく演者の鼓動の前では必要充分な背景でしかない。

 

少年が外の世界へ足を踏み入れるときの憧れや慄きや喜びや躊躇いといった感情の揺れを驚くほど精緻に捉え切る。演じるサニー坊が本当に良く、これを引き出したジョナ・ヒル端倪すべからざる手腕。90年代の意匠や16ミリの質感は背景の必要条件。(cinemascape)

 

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おもひでのしずく (2010年2月15日 (月))

※おもひでのしずく:以前書いたYahoo日記の再掲載です。

 

現実のリアルとシンクロする映画の虚構

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20代の前半であったから、今から20数年前のことだ。
ある週末、大阪はミナミ、道頓堀の居酒屋で学生時代の連れと4人で飲んでいた。
10時ごろになり、帰ろかと店を出たものの、帰ってもしゃあないしとも思いつつ繁華街の裏路地を4人でダラダラ歩いていたら、横にスッと白タクが徐行で寄ってきてた。
スルスルと運転席の窓が下り、運転手が声をかけてきた。
「兄ちゃんら、どこ行くん」
「何なん」
「安くやれるとこあんねんけど」
「…」
「スナックのお姉ちゃんがバイトでしてんねん」
俺たちは足を止めた。
明らかに胡散臭いと思う一方で「スナックの姉ちゃん」という微妙なリアリティに惹かれるものがあったのだろう。
値段とか交渉してる間に1人は「帰る」と言って帰ったが、残った3人は白タクに乗り込んだ。
グルグルとどこ走ってるのかもわからん状態で連れまわされ降ろされたのが、ありえんくらいボロいラブホの前で、俺ら3人は階段を昇って2階の部屋に1人ずつ入れらたのだ。

俺は一通り部屋を見渡しベッドに腰掛けて服を脱いだ。
パンツ1丁でバスローブを着て、今か今かと待った。
正直、後悔の念が強く、しかし、前金で払ってるので速攻でやって帰ろと思っていた。
だが、10分が経ち、20分が経つも待ち人来たらず。
シーンと静けさだけが支配する1室で待つこと30分。
かすかに廊下をコツコツと歩く足音が近づいてきた。
「来たー!」
しかし、足音は隣の部屋の前で立ち止まり、ドアを開ける音が…。
あいつのとこ来たんやし続けて俺のとこにも…と思い、おもむろに煙草に火を点け余裕のポーズでベッドに横たわり耳をそばだてる。
だが、10分ほどしても誰も来ない。
隣室から微かに聞こえるベッドのきしみ音と男と女の話声。
俺は壁に近づいてみたが、何を言ってるかまではわからない。
20分が経ち、30分が経った。
誰も来ない。
すると、隣室のドアが開く音がし、足音が廊下に出た。
そして、その音が俺の部屋の前まで来て止まった。
「う、嘘やろ…1人で3人順番に回るってか?…俺いややー!あいつの後なんて」
と思う間もなくドアがギギーと音を立てて開かれた。
愛想もくそもない痩せぎすの年増ババアが入ってきた。
「さ、最悪や…」
そのあとのことは書きたくない。

数年後、俺はコーエン兄弟の「バートン・フィンク」という映画を見た。
とんでもない傑作だと思った。
しかし、思うのだ。あのラブホでの1夜の経験がなかったら、この映画の主人公のホテルの隣り部屋への偏執的なまでの過敏な反応は理解できなかったろうと…。

以前に書いた「日常における映画的記憶」と題した「パッション」と「ポセイドン・アドベンチャー」に続き表題を変え「バートン・フィンク」をお届けした。
次回は「グエムル 漢江の怪物」の予定である。

マイ・ウェイ 12,000キロの真実

★★★ 2012年4月21日(土) 新世界国際劇場

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数奇であることにかまけている。描くべきは2人の心理的葛藤や確執なのに、釣瓶打ちに色々起こりすぎて、その勢いに気をとられてる間に終わってしまう。受けに徹するドンゴンに対してオダギリの遣り放題な七変化責めが笑えるのがご愛嬌か。(cinemascape)

 

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風とライオン

★★★ 1982年3月12日(金)  シネマ温劇

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ルーズベルトとの対立軸は申し訳程度の扱いで、物語はひたすら女目線と子供目線で男コネリーを描くことに奉仕する。正直つまらん。異文化との邂逅は『アラビアのロレンス』を踏襲、馬の描写はミリアス信奉の黒澤チック。新味がない。(cinemascape)

 

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マロナの幻想的な物語り

★★★★ 2020年9月12日(土) 梅田ブルク7シアター3

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生まれてから3人の飼い主のもとを転々とするワンちゃんの物語であるのだが、描かれてることは、ワンちゃんは人間に忠実で可愛い、なのに人間は身勝手で利己的な生き物だ。

ってことで、まあ目新しくもなんともないお話です。

 

フランス映画ってことで、主役のメスワンちゃんの声を当ててる女優が淡々と感情を抑えてフランス語の独白調で語り続ける。その優しい響きの裏側の哀しみがソクソクと染み入ってくる。これがすごく良かった。吹き替え版だとどうなのか知りませんが。

 

女性監督によるものなのだが、この映画、総じてでてくる男はみなワンちゃんに優しいんですが、女はそうでもない。このへんがシビアな現実認識のもとに立ってる気がする。うがった見方をするなら、自分のしでかしてきたことへの懺悔なんちゃいますかね。3番目の飼い主の少女は監督の自己投影かも。

 

美術に造詣がないので、どう表現したらいいのかわからないが、アーティスティックで魅力的な絵面と動きのアニメーションだ。特に最初の飼い主の大道芸人との挿話は傑出している。人に非るような動きの連鎖が人外のワンちゃんの夢想天国を現出させている。

 

3人目の一家は、シングルマザーと幼い娘と老いた偏屈爺さんが暮らすが家計は厳しい。

ワンちゃん連れて散歩に出た爺さんが、遣り繰りに追われる娘を慮る犬への語りかけ。

ものすごく世知辛い世界観だが、こういう地に足ついた描写を俺は支持したい。

 

3軒目の家でマロナは幸せだったか?

少女だった娘がハイティーンになったわけだから、なんやかんやで10年くらい飼われていたことになる。それは、当初は敵対心むき出しだった飼い猫が添い寝するようになる期間。

そう考えると、冒頭とラストで繰り返される俯瞰のショットは違う様相で胸に迫ってくる。

 

緩やかに下降しゆくマロナの生涯だが、老いた父と幼い娘を抱えつつ受け入れた母の決断が彼女の10年の晩年を決めた。それは悪くない半生であったと思う。最初の大道芸人との束の間の日々は幼い彼女の夢想の天国。その夢幻の表象は限りなく映画を延伸させる。(cinemascape)

 

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