男の痰壺

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マロナの幻想的な物語り

★★★★ 2020年9月12日(土) 梅田ブルク7シアター3

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生まれてから3人の飼い主のもとを転々とするワンちゃんの物語であるのだが、描かれてることは、ワンちゃんは人間に忠実で可愛い、なのに人間は身勝手で利己的な生き物だ。

ってことで、まあ目新しくもなんともないお話です。

 

フランス映画ってことで、主役のメスワンちゃんの声を当ててる女優が淡々と感情を抑えてフランス語の独白調で語り続ける。その優しい響きの裏側の哀しみがソクソクと染み入ってくる。これがすごく良かった。吹き替え版だとどうなのか知りませんが。

 

女性監督によるものなのだが、この映画、総じてでてくる男はみなワンちゃんに優しいんですが、女はそうでもない。このへんがシビアな現実認識のもとに立ってる気がする。うがった見方をするなら、自分のしでかしてきたことへの懺悔なんちゃいますかね。3番目の飼い主の少女は監督の自己投影かも。

 

美術に造詣がないので、どう表現したらいいのかわからないが、アーティスティックで魅力的な絵面と動きのアニメーションだ。特に最初の飼い主の大道芸人との挿話は傑出している。人に非るような動きの連鎖が人外のワンちゃんの夢想天国を現出させている。

 

3人目の一家は、シングルマザーと幼い娘と老いた偏屈爺さんが暮らすが家計は厳しい。

ワンちゃん連れて散歩に出た爺さんが、遣り繰りに追われる娘を慮る犬への語りかけ。

ものすごく世知辛い世界観だが、こういう地に足ついた描写を俺は支持したい。

 

3軒目の家でマロナは幸せだったか?

少女だった娘がハイティーンになったわけだから、なんやかんやで10年くらい飼われていたことになる。それは、当初は敵対心むき出しだった飼い猫が添い寝するようになる期間。

そう考えると、冒頭とラストで繰り返される俯瞰のショットは違う様相で胸に迫ってくる。

 

緩やかに下降しゆくマロナの生涯だが、老いた父と幼い娘を抱えつつ受け入れた母の決断が彼女の10年の晩年を決めた。それは悪くない半生であったと思う。最初の大道芸人との束の間の日々は幼い彼女の夢想の天国。その夢幻の表象は限りなく映画を延伸させる。(cinemascape)

 

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