男の痰壺

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荒野の誓い

★★★★ 2019年9月13日(金) 梅田ブルク7シアター2

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物語を転がす便が甘いとは思う。

先住民を蛇蝎のごとくに憎み殺しまくってきた男と亭主と幼い娘3人を先住民になぶり殺しにされた女。

彼らは老いたシャイアン族の族長を故郷の居留地へ送り届ける旅路に帯同する。

その旅路に於いて憎しみの感情を押し殺して、それを理解・信頼へと転化させていく。

その肝心要の心理の移ろいが、てんでいいかげんなのだ。

女は家族を殺したのがコマンチ族の輩で、シャイアンは違うってことで、まあ、わからんでもないが、男は護送の任務をいやいや拝命したとき、天も裂けよとばかりに悶絶したんじゃなかったのかいな。

 

でも、その点をスルーする術を、長い映画鑑賞歴をもつ俺は悲しいことに知っているのであった。

そうすりゃ、これは良い映画だ。

スコット・クーパーの映画は「ファーナス」と「ブラック・スキャンダル」を見ているが、ともに静謐で内省的な味わいが捨てがたい作風だった。そして、両作とも撮影が高柳雅暢で、これがまたシャープでクリアな映像筆致で、このコンビは期待を裏切らないと思った。あらためて。

 

長い戦争を経験したとき、男はそう簡単にはその経験を振り切れないのだが、一方で、女は振り切って前を向く。子供がいれば猶更。

そういうラストの詠嘆であり、それをギリで反転させるハリウッドライクな顛末も心から良しと思えた。

 

ちなみに蛇足だが、この憎しみと和解の物語を見るにつけ、やっぱ、今の日韓問題を思い浮かべずにはおれなかった。こんなふうになればどんだけいいやろかと。

 

絶対に癒えぬ憎悪も時を経て齢を重ね同じ側に立てば新たな何かが見えてくる。次世代がそれを後押しするだろう。心理の流れが淡白に過ぎるきらいはあるが、子を虐殺された母は、最早レイシストに弾をブチ込む事を躊躇はしない。アメリカが到達した新たな地平。(cinemascape)

 

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