男の痰壺

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遠雷

★★★★ 2019年9月7日(土) シネヌーヴォ 

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 都市近郊でトマト栽培を生業とする若者の話なのだが、このビニールハウス内での作業がドキュメンタルに突き詰めて描かれるわけではないのが物足りない。

であるから、本気かどうかもわからない農業への思いってのが、本気かどうかはともかく並置される人間とのドラマとの関係性において圧倒的に弱い。

にもかかわらずこれが、見る者を強烈に引き付ける磁場を擁するのは、石田えりと横山リエの2人の女優の力量によるものだ。

そのへん、同じように主人公と家族・恋人との関係性を描いた「祭りの準備」が家族の描写が秀でいて恋人がかすんだのと対称的で、女の家に入り浸る父親にハナ肇ケーシー高峰という印象の似た役者を配したのも対比を喚起する。

 

先述の2人の女優が登場するシーンはみな良い。

SEXしたくてたまらない若者と女の情動が迸っていて清々しいかぎりです。

ジョニー大倉をめぐる挿話は、今見るとそれほどインパクトがない。終盤の述懐は冗長に思えた。

荒井の脚本もだが、安藤庄平の撮影が特に新人であった根岸をサポートして堅実な仕事だったと思う。

 

この映画は、シネヌーヴォの優秀映画観賞会なる企画で見たのだが、続けて長崎俊一の「ロックよ静かに眠れ」も見るつもりだった。料金も500円だし、プリントも美麗で楽しみにしていたのだが、「遠雷」上映開始1時間前に「ロック」のチケットを買い求めると何故か整理番号が69番目だった。この映画館は69席なので、その時点で満席だったことになる。なんやねんと思ったがジャニーズ絡みのロートルファンが来てるのやろと思っていた。そして「遠雷」が終わってロビーに出るとそこは妙齢のご婦人連で埋め尽くされていたのだ。俺には、このアラフィフの婦人たちに混じって一番最後に入場し空いた席を探して彼女達に囲まれて映画を見る勇気がなかった。これが女子高生や女子大生なら踏ん張るのだが。500円というのも諦めの気持ちを誘発した。しばし迷ったすえに俺は映画館をあとにしたのだ。

男闘呼組ってそんなに今でも人気あるんかいな、ふん!

 

農業を営む男を描く以上トマト栽培の苦労や悦びがもう少し欲しかった気もするが、男と女の虚飾ない性欲とその床相性が合えば些細な軋轢は乗り越えていけるという身も蓋もない摂理を描いて素晴らしく衒いがない。父や友人の破綻は女運の悪さで片付けられそう。(cinemascape)

 

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