男の痰壺

映画の感想中心です

ゴーストタウンの黄昏 シネヌーヴォの憂鬱

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阪神電車九条駅を降り、地上に出ると強烈な日差しが容赦なく俺を焼き尽くした。中央大通りと交わる道は片側3車線の広い道なのに、日曜の午前中とはいえ車が全く見えない。蝕まれ続けた日常のゴーストタウンめいた光景が日差しの痛みを心理的に倍加させる。遮る木陰もないなか、俺は汗ぐっしょりでシネヌーヴォにたどり着いた。

 

優良映画鑑賞会なる企画上映の山田洋次吹けば飛ぶよな男だが」と前田陽一「あゝ軍歌」を見に来たのだ。映画館の前には人影もあまりない。内心ほっとして受付へ。おもむろに「吹けば飛ぶよな1枚」と言うと、にべもなく「満席です」と。

「な〜に〜っ!」と大声で叫び「やっちまったな」と心の中でつぶやいた。「補助椅子で見ます?」と言われ「いらん!」と吐き捨て外に出た。日差しが俺を容赦なく苛む。

どうする俺、1時間半時間潰して「あゝ軍歌」だけでも見るかと、念の為ネット購入の画面を見ると、そっちも満席だった。

2週間前の夕方、岩井俊二のリモート映画を見に来て、やっぱり満席ですごすご帰った日のことが頭をよぎる。どないなったんじゃあ、この映画館はよお!アホんだら〜。

ソーシャルディスタンスもけっこうやが、酒売っとるヒマあるなら座席緩和することも検討せえや。

 

梅田まで出て何か見て帰るかとスマホで時間を見かけて、どうせどこもかしこもいっぱいやろなとか思ってるうち急速に気力が萎んできた。

 

人気のない通りを歩いていて、何故かやたら胸騒ぎがし出した。

病気のこと、仕事のこと、女房のこと、息子らのこと、親のこと、女房の親のこと、家のこと、金のこと。コロナが炙り出した多くの不安がのしかかってくる。

 

しゃあない、散髪でもして帰ろと決めて電車に乗った。頭側の髪が伸びてきた気がしていたが、触ってみるとスカスカに減ってきた毛量がうら寂しい。頭頂を触ると更にうら寂しくなった。心が折れて家に帰ろと思った。

電話したら、昼飯買ってこい言われ、業務スーパーで89円のざるそばと290円のお好み焼きを買って帰った。夕方、梅田に行くからと言って酒を飲み出した。プラネットで「獣人島」という映画を見るつもりだったのだ。

しかし、いつのまにか寝てしまい。起きたら夜だった。

 

この日を境にシネヌーヴォは俺にとって鬼門となったのである。