★★★ 2021年8月15日(日) シネヌーヴォX
川本喜八郎の代表作として巷間言われてるのはこれと「火宅」あたりなんでしょうか。てことで期待して見ましたが。
短篇であるから細かい状況描写があるわけでなく、ひたすらに岡惚れ女が逃げる男を追いかける。
ある意味すごい話だと思うのは、こういう古来より伝承される説話というものはバリエーションを変えて別の物語として反復されるものなのだが、恋狂いした女が嫉妬で蛇に変身、男を釜焼にして殺す。なんて話は他に聞いたことありません。
こういう振り切れたキャラを映画は好んで描くのであり、確かに渡河の場面で吹き荒ぶ風に髪をざんばらになびかせるの図なんて壮絶ではある。でも、この思い込み女の内面に加担できるもんは結局のところ何ひとつ感じられません。
物語の壮絶な佳境のみを抽出しただけの味気なさが拭い切れないのです。
壮絶さの結晶のようではあるが、佳境のみを抽出したこの世界から物語の内奥が敷衍されるかといえばそうでもない。理不尽に懊悩する、或いは抑制の箍が外れ情動に身を委ねる哀しみや無常は遂ぞ沁みてこない。ラストに至ってはアッチョンプリケの境地に至る。(cinemascape)