男の痰壺

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誘惑

★★★★★ 2023年11月20日(月) シネヌーヴォ

千田是也と芦川いずみ、左幸子と葉山良二、渡辺美佐子安井昌二の3つの恋バナが主軸となるが、どれも多分にライトである。それでも、その周辺の多彩な人物群像の関わりを適宜捌きながらグイグイ物語を推し進める中平の手管はなるほと最高作と見る向きにも頷ける手際だ。まあ、そんなに中平の映画見てませんけど。

 

女のことしか考えてない老人と仕事や勉強そっちのけで「お芸術」にうつつをぬかす若者たちのどうでもいいよな話なのだが、特筆すべきは頻繁に差し込まれる心理のモノローグで、普通はそういうのに頼る心理描写は怠惰とされるのであるが、やたら遍くどの人物にも使われることで手法としての特異性が際立ち文学性を獲得している。

又、中心に老人の若かりし頃の恋愛への悔恨を据えたことで、浮ついた物語も安定した中心軸を得たように思えるのだ。

 

出演者みな可もなく不可もなしではあるが、多くの方の指摘通り唯一、渡辺美佐子の堅物からの変貌は物語に甘酸っぱい清涼を施している。

 

他愛無い恋のアラベスクなのだが老人を軸に据えて昔の恋人の娘・自分の娘・店の使用人の3方位への意識の流れを頻繁にモノローグで語らせることにより高位な文学臭が発生する。多様な周辺人物の捌きも闊達であり、繋ぎも気障寸前の寸止めが品位をもたらす。(cinemascape)

 

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