男の痰壺

映画の感想中心です

火まつり

★★★★★ 2022年4月25日(月) シネヌーヴォ

原作・脚本/中上健次、撮影/田村正毅、美術/木村威夫、音楽/武満徹。とまあ、この布陣を見ただけで柳町がこの映画にかけた裂帛の気合いが伺える。そして、それは結果に結びついてると思います。個人的には「さらば愛しき大地」より上位に置きたい出来だと思いました。

 

余りに唐突すぎる物語の帰結に口あんぐりなるんですが、この映画は理が通るような常套の物語を語る気がそもそもに無さそうだ。

序盤で北大路欣也の幼なじみ太地喜和子が帰郷し、2人は当然のように不倫関係になる。しかし、そのことは中盤以降放逐される。なんだか知らん間に関係は終わったらしい。

一度ならず二度まで養魚場に誰かが重油をまいて魚が全滅するが、犯人を見つけるといったことに、住人たちは然程熱心にも見えない。

町は山と海に挟まれ山で働く者と漁師に住民は2分されているが、両勢力の利害のせめぎ合いなども描かれない。

 

映画はひたすらに、その山と海と両者の間にある何もない町の広場を往還し、その濃密な空気と微かに点描される人の思惑が虚空に揺蕩う時間を描いている。それを包括的に画面に刻印し得たのは田村正毅の撮影があったからだろう。このカメラの空間把握力は特筆もんだと思います。

 

日本映画伝統の土着的日常の営為とそれを描くアントニオーニのような描法のミニマリズムが渾然となった稀に見る文学的達成なんじゃないでしょうか。

 

殺風景な三叉路が山と海と街への線路を結びつけ揺蕩うような人の思惑が交錯し悠久の時間を刻む。その磁場のような空間を捉える田村の的確なカメラ。物語の因果や帰結は放逐され今村的土着信仰とアントニオーニ的描法のミニマリズムが渾然一体化。(cinemascape)

 

kenironkun.hatenablog.com