男の痰壺

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マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

★★★ 2023年7月6日(木) 大阪ステーションシティシネマ10

1980年代は俺の20代の年紀なので世界の政治構図になんてあんまり関心もなかったわけだが、日米に於てはレーガン・中曽根のロン・ヤス蜜月でありイギリスでは鉄の女サッチャーの時代、そして、ゴルバチョフのもとでソビエト連邦は解体に向かう。まあ、その程度は記憶にあります。

 

サッチャーとは何者であったのか?という問いかけに対しては表層のトピックを並べただけの映画でしかないのだが、公開から10数年を経た今、たまたま見て考えさせられることも多かった。

 

バリバリの保守で右派で新自由主義者。ネット上の過剰なリベラル言説が現実の政治に少なからぬ影響を及ぼす現在と違って、サッチャーは結構にやりたい放題やっていて、社会保障のカット、国営企業の民営化、法人減税&消費増税、労組の無力化などなど、今の政治家だとビビりまくって何ひとつ出来ないでしょう。

映画は序盤でそういった経済的な内政に触れるけど突っ込んだものもなく、以下IRAのテロ、フォークランド紛争などの外事トピックを表層的に舐めていく。

 

晩年、認知症を患ったサッチャーの回顧として若い頃からの来歴が描かれるのだが、先に逝った夫デニスの幻影が現在形でたびたび現れる。この辺の描写の切なさとサスペンスは、認知症映画と言っていいほどの厚みで、まあ、女性監督ならではなんでしょう。でも、やっぱバランスを欠いた感も。

 

メリル・ストリープがアカデミー主演女優賞。そうだわなというしかない。この方がどんなに凄くてももはや驚きもないです。夫役は見てる間トム・ハンクスかと思ってたんですが、ジム・ブロードバンドという方でした。黒子役を生涯通した夫に光を当てた映画としては十全でした。

 

トピックを表層的に並べただけで反ポピュリストの彼女の功罪を解き明かそうとの意欲はない。代わりに晩年の揺蕩うような茫漠の日々への切なく優しい眼差し。凡夫と言われた彼は鉄の女であるための潤滑油。そして今、亡き夫との対話は彼岸への誘いとなるのだ。(cinemascape)

 

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