男の痰壺

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ミナリ

★★★★ 2021年3月26日(金) TOHOシネマズ梅田6

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移民した日本人たちを題材にしたものが、えてして日本人ムラの中の話になるのに対して、この家族は個で屹立している。それは、日本人と韓国人のメンタリティの違いというより、監督・脚本のリー・アイザック・チョンがアメリカ育ちの移民2世であることが大きい。国家や民族といったアイデンティティが希薄なのだろう。映画には差別や祖国への思いといった要素はほとんどありません。

なので、普遍的な家族のあれやこれやの物語としての純度が高いと思いました。

 

夫婦の、或いは子どもを含めた家族の物語として身につまされる既視感が随所にある。

夫が野菜の買い手を苦労のすえ見つけて、よっしゃーこれでなんとかなるでーと喜んでいるそばで妻はついていけないから別れると言い出す。夫にしたら全く理解できない天国からの地獄落ちで、黙りこんでしまった夫を見てわかるわーと深く同意する俺なのであった。

 

そもそも価値観の違う男と女という生き物が生計を営む夫婦ってのはホント難しい。まあしかし、往々にしてそういった夫婦の危機は協力して立ち向かうしかない到来する新たな危機によって抑え込まれていく。ここではおばあちゃんがしでかしてくれます。

 

そのおばあちゃんを演じているユン・ヨジョンは韓国の伝説の名女優とかだそうで、最近の出演作「チャンシルさん」とか「藁にもすがる」を俺も見てるけど、格別な印象もなかったんですが、この映画の彼女は本当いいです。アカデミー助演女優賞とれたらいいのにね。

 

一家を取り巻く物語に、劇的な悲劇は起こらない。というか起こっているのだが悲劇として鬱々と悲壮ぶってるヒマはない。前を向いて進むしかない。故国の何もかもを捨ててきた彼らに帰る場所などないのだから。

 

監督の次回作は「君の名は。」のハリウッド実写リメイクだそうで、これもかなり楽しみです。

 

民族差別のない理想郷として描かれた米アーカンソーのど田舎で個の信条で生きる家族の内部軋轢が精緻に描かれる。夫婦の掛け違えた未来図は家族に降りかかる困難によって押さえ込まれて済し崩しに生きてくしかない。それも又家族というものだという肯定感。(cinemascape)

 

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