男の痰壺

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崖上のスパイ

★★★★ 2023年3月8日(水) シネリーブル梅田2

俺は中国共産党の映像番頭みたいなポジションにいるチャン・イーモウにがっかりするのだが、その一方でやっぱこの人の映像筆力は並々ならぬもんがあると思わざる得ないんです。今作もその辺を堪能しました。

 

満洲国に潜入した共産党スパイたちが受けているミッションは日本軍の暴虐を世界に知らしめるためにある人物を国外に逃亡させること。当然、悪逆な関東軍人とか出てくるのかと思いましたが、出ません。彼らと対峙するのは満洲国の特務警察。意外だった。

次々降りかかる危機をすり抜けるというスパイサスペンスの王道をイーモウ演出は時にデ・パルマ的に、時にグリーングラス的に魅せ切る。この人、ハリウッドでアクションを一度撮ってほしいと前から思ってましたが、今回は熟練の趣きさえ感じる。

 

【以下ネタバレです】

本作が秀でてるのは、4人のスパイたちのミッションを描く視点が中盤から特務警察内部に移行することだ。実はそこにも共産党員の潜入スパイがいて、その炙り出しのサスペンスが加わる。2方面からの虚実と猜疑のドラマが佳境のアジアシネマという舞台に集約されていく。上手い作劇だと思う。

 

この特務への潜入スパイを演ってるオッサンはユー・ホーフェイって人だが、どことなく丹波哲郎を思わせるイメージで、ラストの締め方とか見てるとイーモウ「Gメン75」やりたかったんちゃうかと思わせるんです。あながち突飛な見方でもないと思う。

 

コン・リー→チャン・ツイィー→リウ・ハオツンと次々に若い女子に乗り替えながらそのエキスを吸い取るように創作を続ける絶倫オヤジ・イーモウ。そのあたりも憎めないっす。

 

『ワン・セカンド』組主戦に列車での応酬から書店での待ち伏せに至る前半の佳境を単線的に熟したイーモウは、中盤以降に物語を分岐させる。搦め手から出てきたユー・ホウェイの丹波チックな居住まいはラストに至って『Gメン75』に近似する。(cinemascape)

 

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