男の痰壺

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土を喰らう十二ヵ月

★★★★ 2023年3月21日(火) シネヌーヴォ

昨年のキネ旬の主演男優賞を沢田研二が受賞したが、対象作品がベスト10内に入ってないのがレアなケースやなと思っておりました。まあ、功労賞みたいなもんかと。

しかし、本作の彼は年相応の滋味みたいなのを醸し出して、なるほどの主演男優賞納得演技でした。

 

食に関する映画ってのは、TVで食番組が氾濫してるのをみても大方の人が好きなんでしょう。俺も例外ではなく「シェフ」が何とかかんとかみたいなタイトルには文字通り食指が動く。ただ、今回は精進料理ですから、肉魚はないってのに気持ちが萎える。でも、そういう男が見ても何だか美味しそうに見えました。

 

1年かけて信州の山村に腰を落ち着けて撮ったようだ。嘘は映さないという気概を感じる。であるから雪をかき分けて地面から掘り出した芋を手がかじかむ冷水で洗うみたいな描写が年甲斐もなく肉食偏重の俺の心を打ったようです。そうやって手に入れた食材を料理して熱々で食べる。「孤独のグルメ」の数倍美味そう。

 

水上勉の晩年を描いたものみたいで、担当編集者の松たか子が月1くらいで山奥まで車でやってくる。一緒に飯食って酒飲んで、「こっち来て暮らさないか」「考えさせて」みたいな関係で、そのゆる〜い男と女の有り様も何か心地良い。そんなわけで、大したドラマも無いんだが、沢田の佇まいと腰の据わった撮影が相まって魅せる出来だと思いました。

 

先日、逝去した奈良岡朋子が沢田の亡妻の母親役で掛け値なしの存在感。小僧の頃に修行に出された禅寺の和尚の娘に懐かしい壇ふみ。彼女が持参する60年ものの梅干しは多分本物だろう。俺は食いたくないけど。

 

自生食材を採取し蒸して熱々を喰う。美味い酒があれば尚いい。12ヶ月をかけたそのリアリズムへの拘りは魚肉偏重の俺をも溶き解す。義母や亡妻や彼女との別れは過ぎ去っていき変わらぬ日々が続くだろう。そういった枯淡の境地を沢田は力まず体現してる。(cinemascape)

 

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